一眼レフカメラの見直し

デジタル技術の進歩により、世の中が変わりました。カメラを取り巻く環境も、この20年ほどの間に様変わりしています。

それ以前のカメラは、フィルムで撮影するのが当たり前でした。というより、それ以外の媒体に記録する方法がありませんでした。

その時代、私は趣味で写真撮影を楽しみました。それが、デジタル技術の出現により、デジタルで記録するカメラが現れました。

それでも、すぐにフィルムからデジタルに全面的に切り替わることはないだろうと私は考えていました。ですので、自分はフィルムの一眼レフカメラを使い続けるつもりでした。

それが、フィルムからデジタルへの転換が猛烈な勢いで起こり、私も2009年4月はじめからはデジタル一眼レフカメラ(デジ一)を使い始めました。

これで、カメラの業界がそれ以上に変わることがないだろうと思っていると、今度は、ミラーレス一眼カメラ(ミラーレス)が現れ、これも、急速なスピードでそちらへ切り替わっている状況です。

写真撮影を趣味とする私もその流れに再び逆らえなくなり、2014年には、ミラーレスを使うようになりました。

実際に使ってみると、被写体がどのような露出で撮れるかが電子ビューファインダー(EVF)で確認でき、それが非常に便利に感じました。そんなこともあり、今後は、ミラーレスだけでいいとまで考えるようになりました。

そんな私でしたが、数日前から、キヤノンのデジ一、EOS 30Dを久しぶりに使い出したところ、一眼レフカメラで写真を撮ることの楽しさを再発見した気分になりました。

その前から、ミラーレスには不満な点も持っていました。そのひとつは、電池の保(も)ちが悪いことです。ミラーレスでは動画も撮れることもあって、すぐに電池がなくなります。

その点、デジ一も電池で駆動させるものの、ファインダーが光学ファインダー(OVF)であることも手伝い、電池の減り方がミラーレスとは大きく異なります。

実は、OVFが私には大きな魅力となっています。

フィルムの一眼レフカメラを使っていた時代、私は暇な時間があると、写真を撮るわけでもないのに、OVFを覗き続けるのを楽しみとしました。

私は標準レンズとされる焦点距離が50ミリのレンズが好きです。私が使っていた一眼レフは、ヤシカのコンタックス RTSとRTS IIですが、レンズは、ヤシカ・コンタックス(ヤシコン)用のカール・ツァイスのレンズを使うよう設計されていました。

本日の豆「ツァ」
キーボードで「つぁ」と変換するのがわからない期間が続きました。あるとき、そのやり方をネットで見たのだと思いますが、[t][s][a]で「つぁ」になることを知りました。それ以降、「ツァイス」と表示させるのが楽になりました。

このレンズが使えるということで、コンタックスを選んだともいえます。

そのレンズの50ミリは、プラナー50ミリ F1.4で、私が大好きなレンズで、今も手元に残してあります。

カール・ツァイスのプラナー50ミリF1.4

その当時のレンズですから、オートフォーカスではありません。自分でフォーカスを合わせるマニュアルフォーカスレンズです。

このレンズをカメラにつけっ放しにしていましたが、OVFを覗いては、フォーカスリングを廻し、フォーカスがあった像や、アウトフォーカスのぼんやりした像を見ては、心を躍らせていました。

そんなことを楽しみにした人がどれほどいるかわかりませんが、これもカメラを持つ人の愉しみのひとつではあったでしょう。

同じことが、ミラーレスではできないといっていいでしょう。やろうと思えばできますが、そんなことばかりしていたら、ただでさえ電池がすぐ減ってしまうのですから、写真を撮る前に電池の容量をなくしてしまいそうです。

それより何より、EVFはモニタで、被写体が持つ光を楽しめるようにはできていません。目の前にある小さなモニタ越しに光を鑑賞する人はいません。

その点、OVFは、レンズから入った光が反射鏡でペンタプリズムへ導かれているため、光そのものを見ていることになります。それだから、いつまで見ていても飽きないのです。

その延長線上に写真撮影があるのです。そんなことを考えると、写真撮影を楽しむのであれば、一眼レフカメラのほうがふさわしいように思われます。

それでも、時代は、ミラーレス中心に回っていくでしょうが。

ちょっとしたことでデジ一のEOS 30Dを使い出したことで、写真撮影がまた楽しくなりました。

ここまで書いたように、OVFを持つカメラを手にすると、また、プラナー50ミリをつけて、ファインダーを覗き、写真を撮ってみたくなります。

私がデジ一を選ぶときにキヤノンにしたのは、キヤノンのデジ一であれば、マウントアダプタを使うことで、カール・ツァイスのレンズが使えることを知ったからです。

そのためのキヤノンEFマウント用のマウントアダプタは、未だに何個も持っています。それを早速プラナー50ミリにつけ、EOS 30Dに装着しました。

ヤシコンとEFのためのマウントアダプタは、薄い鉄の輪でできたものなので、これをつけても、マウントアダプタがほとんど目立ちません。

このマウントアダプタをヤシコンのレンズにつけることで、キヤノンEFマウントに装着できるようになります
キヤノン EOS 30Dにヤシコンのプラナー50ミリF1.4

EOS 30Dは、撮像素子のサイズが、35ミリフルサイズより1.6分の1(ニコンなどは1.5分の1)面積が小さい、APS-Cサイズです。

この撮像素子の違いについては、勘違いしている人が多い印象です。

以前のキヤノン製デジ一の35ミリフルサイズカメラでは、APS-C用のレンズは使えませんでした。その逆は使えました。つまり、APS-Cカメラでは、フルサイズのレンズも使えるということです。

APS-Cはフルサイズより1.6分の1小さな撮像素子が搭載されているため、そのカメラにフルサイズ用のレンズをつけると、ファインダーから見える範囲と、実際に撮影できる範囲が中心部分の1.6分の1になってしまいます。

そうしたことから、APS-Cのカメラで使うレンズの焦点距離の感覚は、フルサイズ換算の1.6倍(ニコンなどは1.5倍)になる、といった、結果的には正しくない考え方がどこからともなく生まれ、その誤った考え方に惑わされている人が多く見受けられます。

私自身、初めてのデジ一となるキヤノンのEOS Kiss X2を使ったときは、撮像素子の違いに惑わされました。そのときのことは、本コーナーで書いています。

APS-Cで面積が小さくなっても、使うレンズの焦点距離には何も影響しません。焦点距離が50ミリのレンズであれば、APS-Cでも50ミリです。

レンズの焦点距離に変化がないのですから、被写界深度も同じです。

ネットの動画共有サイトのYouTubeで動画を配信されているYouTuberに桜風涼(はるかぜ・すずし)氏(1965~)がいます。桜風氏は、30年以上に渡って映像制作の仕事をされ、桜風氏自身が制作会社の社長をするそうです。

このようなプロの映像制作者ですが、35ミリフルサイズとAPS-Cの撮像素子のサイズの違いからくるレンズの扱いについて、誤った認識で動画を配信されているようにお見受けします。

桜風氏が直近に配信された動画を下に埋め込んでおきます。

【 #fx30 はなぜ美しいのか?】映画で使われるSuper35の秘密を探りながらFX30の美しさについて解説します。

桜風氏が今年の途中に購入し、お気に入りのカメラとなったソニーFX30が、スーパー35といわれる動画制作向きの動画専用機といってもいい仕組みで、撮像素子がAPS-Cサイズであるため、ご本人にはその意識がないでしょうが、結果的にはポジショントークとなっている印象です。

それだからか、35ミリフルサイズが搭載されたカメラには否定的な考えがお持ちのようで、どうしても、フルサイズを貶すような話し方に傾きがちです。

上の動画では、フルサイズとAPS-Cで撮った動画におけるF値は一絞り分程度しかなく、いわれているほど、両者のレンズのボケには違いがない、といったことを、表を使って話されています。

本ページですでに書いたように、どちらのサイズであっても、同じレンズを使うのであれば、違いがないどころか、まったく同じです。

なぜなら、焦点距離が同じだからです。

フルサイズであろうがAPS-Cであろうが、焦点距離50ミリのレンズは、どちらも50ミリです。フルサイズの50ミリレンズをAPS-Cにつけたら1.5倍や1.6倍の焦点距離になるわけではありません。

このあたりのことが、桜風氏が撮像素子の違いとレンズについて話す動画をいくつも見ると、桜風氏が認識を誤っているように思えてなりません。

桜風氏は、APS-Cのカメラに焦点距離35ミリ程度のレンズをつけると、フルサイズの50ミリレンズと同じになる、というような話をしていますが、これに通じる理解の仕方こそが、私が13年前、APS-Cサイズのデジ一を購入する前に散々聞かされた考え方でした。

それで、実際に手に入れて、自分でファインダーを覗くと、焦点距離50ミリのレンズが、50ミリレンズの見え方に見え、頭が混乱した、というようなことを当時の本コーナーで書きました。

何度も書くようですが、それがAPS-Cであろうと、50ミリのレンズは50ミリのレンズで、50ミリが75ミリや80ミリになるわけではないです。

ですから、桜風氏がいうように、APS-Cに35ミリのレンズをつけても、フルサイズの50ミリレンズの代わりにはなりません。35ミリは35ミリのままです。

それでも、フルサイズとAPS-Cでは、同じレンズでも見え方が違います。それは、APS-Cサイズが、35ミリフルサイズより1.6分の1、あるいは1.5分の1小さいからです。

小さければ見える範囲が小さくなるのは当たり前のことです。

そうであっても、ファインダーで見える像の大きさは、フルサイズもAPS-Cも、マイクロフォーサーズも同じです。

このことは、ズームレンズを使っていると気づきにくい(?)かもしれません。

私がフィルムの時代から焦点距離50ミリのレンズが好きな理由は、ファインダーに結ばれる像の大きさが、自分の肉眼とほぼ同じに見えるからです。

今またEOS 30Dを使い始めたことで、OVFの有り難さを実感しています。50ミリのレンズをつけてファインダーを覗くと、ファインダーが素通しのガラスのように錯覚してしまいます。

ファインダーの中の像の大きさと、肉眼で見える像の大きさがほぼ同じだからです。同じことは、ミラーレスのEVFでは感じにくい(?)かもしれません。

像の大きさはフルサイズもAPS-Cも同じですが、見える範囲が、APS-Cは狭くなり、それが13年前の私は馴染めず、その一年後にフルサイズのカメラに乗り換えました。

焦点距離50ミリのレンズといえば、映画監督の小津安二郎19031963)が好んだレンズの焦点距離が50ミリだと聞きます。なんでも、それだけで作品を作ることが多かったそうです。

小津作品は、スタンダードといわれる真四角に近いサイズ(横縦比が1.375:1または1.33:1)です。使われたフィルムは35ミリで、スーパー35といわれるサイズに近いか同じサイズでしょう。

『秋刀魚の味』予告編 / 小津安二郎監督作品 偉大なる映像作家・小津安二郎の遺作

この条件で小津は焦点距離50ミリを愛用しています。

広い画が欲しいからといって、広角レンズに換える必要はありません。50ミリ一本でも、離れて撮れば広い画が撮れます。50ミリというレンズは、使い方によって中広角(こんないい方はないかな?)から中望遠までの表現ができると昔からいわれています。

昔に、小津がこれ一本で作品を作り、不満を持っていないわけですから、今でも、特別の表現を狙わなければ、スーパー35ミリに準じるAPS-Cサイズの撮像素子を持つカメラでも、焦点距離50ミリのレンズ一本で作品が作れるでしょう。

フルサイズに馴染んだ私からは、スーパー35やAPS-Cは狭苦しい印象です。しかし、だからといって、小津は35ミリ相当の焦点距離のレンズを選びませんでした。

今、私は、APS-Cサイズの撮像素子が搭載されているEOS 30Dにプラナー50ミリをつけていますが、小津監督になったつもりで、これに慣れようとしています。

APS-Cでフルサイズ50ミリのように見える35ミリ前後のレンズを使うつもりはありません。

APS-Cに50ミリのレンズをつけ、フルサイズの50ミリと同じ画が得たいときはどうすると思いますか?

簡単なことです、それが正確に、被写体からの距離がフルサイズのときの1.5倍や1.6倍になるのかわかりませんが、その程度、後ろに下がって写る範囲を広げるだけです。

このことを考えれば、桜風氏が直近の動画で話している、フルサイズとAPS-Cにおけるレンズの被写界深度の相関関係も理解できると思います。

何度も書きますが、フルサイズもAPS-Cも、使うレンズが同じであれば、焦点距離は同じです。ですから、両者に、被写界深度の違いは生じません。

それでも、桜風氏がいうように、両者の被写界深度に差が生じるのは、同じレンズを両方のサイズで使うとすれば、APS-Cでフルサイズと同じ範囲を収めるため、後ろに下がることによってです。

桜風氏が直近の動画の前の動画で、レンズのF値が同じでも、被写体に近づくほどボケが大きくなる、と話されています。

逆のいい方をすると、被写体から遠ざかるほど、ボケの量が減るということです。

このことから、フルサイズとAPS-Cで同じレンズを使い、同じ範囲を撮ろうとすれば、APS-Cはフルサイズのカメラの位置より1.5倍や1.6倍程度遠ざからなければならなくなり、結果的に、同じレンズを使いながら、被写界深度が広がり、その分、ボケの量が減る、ということです。

写真であれ動画であれ、レンズを使ってフィルムやデジタルに定着させる以上、人間の眼のように、広い範囲を収めることはできません。

また、映画であれば、舞台と違い、観客に見せたいものを撮影します。そのことでいえば、フルサイズとAPS-Cサイズの違いは些末なことでしょう。

要は、各々(おのおの)の作品の監督が、どのように撮りたいか、そのときどきに選択するしかありません。

昨日の夕方、庭に出るとまだうっすらと明かりが残り、空に半月が見えたので、EOS 30Dで写真を撮りました。

撮影した時刻は午後4時56分です。昨日の東京の日の入りは午後4時37分ですので、陽が沈んだ17分後ぐらいになります。

ちなみに日の出は、1月2日から最も遅い時刻になります。東京は午前6時51分です。この日の出時刻が2週間ほど続きます。

空に浮かぶ三日月(2022.12.30)

このときは、シグマの50ミリマクロレンズをつけていました。露出は、YouTubeの”2B Channel”配信者のプロカメラマンで写真家の渡部さとる氏(1961~)がおっしゃっていた、「マジックアワー」を撮る時の露出を思い出し、それで撮ってみました。

何も考えず、その露出設定を信じて撮ったら、上のような画像に撮れました。撮ったあとに手は一切加えていません。

こんな風に、EOS 30Dを使い始めたことで、今は写真を撮ることが愉しいです。

昨日の日中も、強い陽射しの中にいた我が家の愛猫の写真を撮りました。直射日光が強くあたる条件は、レンズを向けるのが躊躇われます。しかし、これも渡部氏の話を思い出し、「感度分の1」で撮ると、いい感じに撮れました。

私が選んだのは次の露出設定です。

  • ISO感度:ISO400
  • シャッター速度:1/400sec
  • レンズF値:f/16

これまで長いこと写真撮影を趣味で愉しんできましたが、F値を16まで絞ることはほとんどなかったように記憶します。

ちなみに、私が使うプラナー50ミリは、最大に絞ったときのF値はf/16までです。

ともあれ、年の瀬に、カメラ撮影の露出の考え方が大きく変わったことと、EOS 30Dの光学ファインダーで撮ることの楽しさを知ることができたのは、大きな収穫といえましょう。

今年は、良い年として越せそうです。

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