このところはカメラの話ばかり書いてしまっていますが、本日も懲りずに書いてしまおうと思います。
今回はレンズの話です。
すでに本コーナーで書いたように、このたび、私は新しいデジタル一眼レフカメラ(デジ一)を購入しました。私が最終的に選んだのは、エントリー・クラスに分類されるキヤノンの”EOS Kiss X2”です。
その際、できるだけ安く購入したいということと、私はズームレンズがあまり好きではなく、これまで使ってきたフィルムの一眼レフカメラ用のレンズもすべて単焦点レンズ(35ミリ・50ミリ・85ミリ・200ミリ)だったこともあり、レンズがセットになったレンズキットでなく、ボディ単体を選び、レンズは最安値圏にありながら(あるために?)人気の”EF50mm F1.8Ⅱ”に決めました。
このことも事あるごとに書いていますが、私は35ミリ・フィルムの標準レンズとされる50ミリが好きです。
私が長年使ってきたのはヤシカ・コンタックスのカメラ用に開発されたカール・ツァイス製のレンズ、プラナー 50ミリで、レンズの明るさを示すF値は1.4という優れものです。ちなみに、この数値は小さいものほど明るく、その分、速いシャッター速度を選べます。
私が今回、キヤノンのデジ一 EOS Kiss X2に選んだレンズも50ミリの標準で、F値は1.8で充分明るい部類に入ります。注文してあったボディとレンズが届き、ファインダーを覗いたとき、久しぶりに血が騒ぎ、あまりの興奮で翌朝はいつもより1時間以上早く目が覚めてしまったことは前回分に書いた通りです。

私を興奮させたのは、ファインダーを覗いたとき、慣れ親しんだ50ミリの画角とほとんど変わらないように感じたこともあります。
しかし、意外な感じがしました。なぜなら、50ミリの画角に見えるハズがないのに、自分の眼には50ミリの画角以外には見えなかったからです。
この戸惑いは、慣れ親しんだフィルムの一眼レフカメラに50ミリの標準レンズをつけて見え方を確認して納得しました。そして、購入前に私がイメージしていていたことと、実際のシステムとの間に思い違いを含めた違いがあったことに気づきました。
それがデジタルの一眼レフカメラであっても、フィルム式カメラのフィルムに相当する撮像素子の大きさが、35ミリフィルム判と同じ36×24ミリであれば、レンズの焦点距離に変化は生じません。たとえば、50ミリのレンズをつければ、焦点距離は50ミリです。
それが、私が選んだデジ一がそうですが、撮像素子には、一回り小さいAPS-Cサイズのものが搭載されています。その分、撮影した画像ファイルの処理が軽くなったり、レンズ回りを小型化できるという利点がありそうです。しかし、35ミリフィルム用に製作されたレンズを使う際には注意が必要になります。
フィルムの1コマにあたる撮像素子のサイズが小さいからです。
35ミリフィルム相当のサイズに比べ、APS-Cは22.2×14.8ミリで、「焦点距離は1.6倍(キヤノンの場合。ニコンなどは1.5倍)になる」と散々聞かされていました。要するに、標準レンズの50ミリをその手のデジ一に装着すると、実際には中望遠の約80ミリになるというわけです。
そのつもりで私はファインダーを覗き、そこに結ばれた画像がちっとも中望遠という感じではなく、慣れ親しんだ50ミリの画角であったため、私は嬉しいのと同時にひどく困惑してしまったのでした。どうなってるの? と。
単焦点レンズに馴染みの薄い人のために書いておきますが、35ミリ判において、50ミリがなぜ「標準レンズ」といわれるかといえば、それはファインダー越しの見え方にあります。
どういうことかといいますと、ファインダーに結ばれる像の大きさが、自分の眼で見た大きさとほとんど同じであることです。それは、ファインダーがまるで素通しのガラスのように、あるがままの大きさで見えるということです。
肉眼と違うのは、見える範囲が狭いことです。ファインダーの世界には限りがあり、その小窓から外界を実物大で覗く感覚、と書いたらわかってもらえるでしょうか。
そして問題のAPS-Cデジ一で見た50ミリレンズの世界です。これも、ファインダーの中には実物大の像が結ばれていたのです。
それですっかり私は気持ちがよくなってしまったものの、今も書いたように、「何でだ? 何でだ?」とひどく困惑してしまったのです。「80ミリの画角で見えるはずなのに、何で50ミリ?」と。
自分で実際に使ってみることで納得した結論を書きます。それは_「撮像素子のサイズが変わっても、レンズの焦点距離は変わらない」ということです。APS-Cの撮像素子に比べて約1.6倍のサイズの35ミリフィルム判用に作られたレンズも、焦点距離が約1.6倍になるのではないということです。
文章で書いていてもわかりにくいと思いますので、作例で説明することにします。下に埋め込んだ画像は、昨日、高校野球の地方大会を見に行ったついでに私がデジ一のキヤノンEOS Kiss X2に50ミリのレンズをつけて撮影してきたものです。
説明用に使った元の画像の記録画質は4272×2848画素ですが、その等倍の画像の一部分を900×600ピクセル分トリミングし、左の画像として示しています。これを35ミリフィルム判と同じ撮像素子に50ミリの標準レンズをつけて撮影した画像というように考えてください。

同じ50ミリのレンズをAPS-Cサイズの撮像素子がついたデジ一につけて撮影したらどのように写るかというイメージ画像です。

ご覧になってわかるように、ファインダーから見える被写体の画像の大きさは同じです。その代わり、見える(=写る)範囲が狭まっています。画像部分だけがファインダーで見えるとお考えください。
撮像素子のサイズが一回り小さいAPS-Cサイズの撮像素子のついたカメラで35ミリフィルム判用に作られたレンズをつけると、「焦点距離が1.6倍になる」という理解の仕方が私の勘違いにつながりました。
50ミリの標準レンズをつけると、ファインダーには中望遠の約80ミリのレンズをつけたときの像が結ばれる、と勘違いしていたのです。それが、50ミリのときと変わらない像だったため、頭が混乱してしまったのです。
考えてみればそうです。焦点距離というのは、レンズの表面からフィルムなり撮像素子なりの距離で決まります。であれば、それがAPS-Cサイズであっても、距離に変化はなく、レンズの焦点距離にも変化は生じないはずです。
ですから、ファインダーから覗く像の大きさが、中望遠になっているわけはないのです。レンズの焦点距離を変えるには、ボディとレンズの間にコンバージョン・レンズを挟む必要があります。
それで初めて理解できました。
要するに、1.6という数字は、APS-Cと35ミリ・フィルム判のフィルム・サイズ、および撮像素子サイズの比率を示すもので、APS-Cは35ミリフィルムの約1.6分の1サイズとなり、ファインダーに結ばれる被写体の面積も約1.6分の1倍に狭まるのだ、ということをです。
それが、35ミリフィルム用の35ミリなら30ミリの大きさの像が見え、85ミリも200ミリも同じで、別に焦点距離そのものが1.6倍になるわけではないということがわかり、私はEOS Kiss X2のボディにカール・ツァイスの単焦点レンズを装着するためのマウントアダプタを注文しました。
実際にこれをつけて使ってみるまでわかりませんが、自分でフォーカスを合わせ、任意のF値にするとシャッター速度を自動で合わせてくれる絞り優先自動露出で撮影できるのであれば、フィルムカメラで長年撮り慣れた撮影スタイルを実現できることになります。それも、お気に入りの単焦点レンズで。
早く試してみたくてワクワクしてきましたが、この後日談は、現物が届き、実際に使ってみてから報告することにします。
以上、本日は、手に入れたばかりのデジ一におけるレンズの話をしてみました。