マラソンの勝敗争いは、レース展開によって異なり、早い段階で選手が飛び出し、そのままゴールする場合もあります。その一方、終盤までもつれ、1964年の東京五輪のように、競技場内で追い抜かれ、3位に終わった円谷幸吉選手のような例もあります。
2020年東京五輪のマラソンおよび競歩の開催地を決める“争い”は、円谷ケースに落ち着きそうな気配です。
東京五輪と銘打つ以上、五輪の花である男女、中でも男子マラソンを東京以外で行うのはあり得ない話です。それが、大会を来年に控えた今、国際オリンピック委員会(IOC)側が、マラソンと競歩の会場を東京から北海道の札幌へ移すよう促す事態となりました。
開催予定の日本にとっては青天の霹靂といえることで、この急展開を受け、関係者は蜂の巣をつついたような騒ぎになっています。
この騒動を朝日新聞が報じていますので、これをもとに、動きを追っておきます。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長によりますと、IOCから一報が入ったのは先週のことだそうです。具体的には、15日、IOC調整会委員長のジョン・ダウリング・コーツ氏から、「今日中にコース変更を決断してくれ」と連絡されたそうです。
IOCとしても、東京の夏の暑さは認識しており、その悪条件の中で、マラソンであれば2時間以上のレースを参加選手に課すのは危険だという判断は、東京五輪が決まった段階からあったのかもしれません。
そもそもの話として、7月下旬から8月上旬にかけての日本は一年で最も暑い時期にあたり、近年、五輪が開かれる予定の東京都心部では、35℃以上の猛暑日になることも珍しくありません。
そんな厳しい暑さが予想される時期に開かれる五輪に東京が立候補したのが間違いといえます。
今年8月19日の朝日新聞の記事が手元にあります。見出しは「暑すぎる東京、選手ら苦心 アイスベストやミスト テスト大会」です。
この記事の「時間やコース 再考求める声」の小見出しのあとに、IOCの次のような要望が紹介されています。
IOCは20年の五輪の開催都市を募る際、「7月15日から8月31日まで」の開催を求めていた。前回64年の東京五輪が行われた秋だと、大リーグなど、欧米の人気スポーツと重なるため、多額の放映権料を払う海外のテレビ局に配慮した。
五輪の開催都市に東京が立候補するにはこの「募集要項」を飲むことが前提となります。
今回のマラソン会場変更の騒動のあとにも聞かれますが、欧米、中でも米国のキー局NBCの都合に合せた夏の一番暑い盛りに五輪を開かされている、といった類いの不満が、その裏事情を知る日本でもあります。しかし、IOCは開催都市を募る際に、きっちりと開催時期を定めているのであり、それを知って開催都市に名乗りを挙げた日本側に問題の本質があることを知る必要があります。
東京が開催都市に決まったあとに時期が設定されたわけではありません。この時期がスポーツの祭典にふさわしくないと判断できれば、はじめから誘致に動かなければいい話です。
日本側は、IOCが定める時期が日本では猛暑の時期に重なり、それが知れ渡って共有されれば、開催都市に名乗りを挙げた日本に不利に働くと考えたのか、東京五輪の招致委員会がIOCに提出した立候補ファイルには次のように記したそうです。
(IOCが設定する五輪開催時期の東京は)晴れることが多く、かつ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候
このアピールに納得する日本人はいないでしょう。嘘をつくにもほどがあります。
本更新で紹介している話はいずれも8月19日の朝日新聞の記事に書かれていることですが、その終わりには、1年前の7月31日、五輪でレースが行われるコースを歩いて、気候や路面状況の確認を行った競歩の選手の感想が紹介されています。
ほぼ日陰がなくて脱水になってもおかしくない。可能ならコースを再考してほしいと思った。
記事ではほかに、ホッケーやトライアスロン、ビーチバレーの選手や関係者の話が紹介され、いずれも、過酷な状況下で大会に臨まなければならないことへの不安を述べています。
東京での開催が決まってからは、マスメディアを中心に五輪ムードが作られ、何年も前からあと〇年と、テレビや新聞で煽り続けました。私はこの手の騒ぎが大の苦手です。
チケットの販売が始まると、テレビはそれを競って取り上げ、いかに大会機運が盛り上がっているかを伝えました。しかし、多くの国民が五輪に冷めた気分を持つことも伝えるべきです。
2カ月ぐらい前、朝日新聞の土曜版で五輪に関する読者アンケートをし、その結果を発表しています。その結果は係の人も驚くようなもので、アンケートに答えた7割程度の人が「五輪には興味がない」と答えています。
今日の朝日新聞の記事には、男子マラソンが行われる8月9日の、東京都心と札幌の5年間の気温と湿度の平均値が載っています。
気温は、都心が【28.7℃】で札幌が【22.3℃】。湿度は、都心が【72.4%】で札幌が【76.4%】です。北海道は東京と比べても湿度が格段に低い印象ですので、意外な結果です。
もっとも、年や設定日によって大きなバラつきがあるでしょう。また、都心の平均気温が【28.7℃】というのも信じがたいです。この程度の気温であることがまれで、30℃以下というのは考えられません。
北海道に暮らしている人などは、札幌でも暑くなることがあるのだから、道東の釧路などのほうが気候的には適しているのでは、といった意見があり、これには私も頷けます。
ただ、五輪のマラソンに適したコースがその地方になければレースは行えないわけで、気候だけでは選べません。
開催都市東京都の小池百合子知事は、今回の一報を聞き、17日午前に都内であった連合東京の定期大会の挨拶で次のように述べたそうです。
東京は一番最後に知らされたんじゃないか。まさに青天のへきれきだ。(中略)涼しいところでというのなら、「北方領土でやったらどうか」くらいなことを連合から声を上げていただいたらと思う。
メンツを潰された思いから述べたとしても、実現不可能なことを都知事が挨拶に盛り込んだのは感心しません。こういうのを、一般的に「キレた」といいます。
読売新聞、朝日新聞、日経新聞、毎日新聞は東京五輪のオフィシャルパートナーです。産経新聞と北海道新聞はオフィシャルサポーターです。
パートナーやサポーターに名を連ねている以上、大会を盛り上げる役目も担わされているのでしょう。そうはいっても、新聞社は一応は「社会の公器」の立場でもあります。
安倍政権(安倍内閣)や財界が、自分たちの利益誘導のために大会を実現するのがわかっているのですから、東京への招致を本来のマスメディであれば疑念を持ち、問題があることがわかれば阻止する勢力として動かなければならない任務が課せられていることは忘れて欲しくありません。
決まる前も決まってからも大手新聞社は五輪の神輿を担ぐことに一所懸命で、アスリートのことなどお構いなしです。
今回の、マラソンと競歩の会場が東京から札幌への動きが明らかになってからも、なお、東京での開催を守り抜こうという意識が表れた記事さえも配信しています。
国民にアンケートを採ったなら、圧倒的多数の人が札幌への変更を支持するでしょう。
日本の大会組織委員会の会長を務める森喜朗氏も、IOCの決定に従う意向のようです。IOCのトーマス・バッハ会長が突然のように述べた会場変更の意思表明に、現地カタールの首都ドーハで取材をしていた日本の“無能”取材陣が大慌てとなって森氏に意向を尋ねると、次のように述べたそうです。
バッハさんは決めておられるのでしょう。IOCも決めたのでしょうね。IOCと国際陸上競技連盟(IAAF)が賛成したものを(日本の)組織委が「ダメです」といえるのか。
思い出されたくもないでしょうが、東京五輪の招致が決まる時期、IAAFで会長をしていたラミーヌ・ディアック氏は、招致実現の立役者ですよね。ディアック氏の息子のパパ・マッサタ・ディアック氏を通じて多額の闇の金が動き、今もフランスの検察が証拠固めに動いているのは、知る人ぞ知る話です。
それはともあれ、話の流れを見る限り、マラソンと競歩が札幌で行われることはほぼ決まったといえましょう。
結果論になりますが、厳しい暑さの中でレースが行われることを前提として、日本の代表選手団3名のうち2名を決めたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の開催意義が問われかねない状況となりました。
この男子のレースを制した中村匠吾選手を大学時代から指導する大八木弘明駒沢大学陸上部監督は、会場変更前までは、できる限り暑い環境になることを望むと話たことを伝える記事がありました。
大八木氏の願望は、そのような悪条件にでもならない限り、世界のトップ選手とはとても対等には戦えない、と戦う前から白旗を挙げているようなに採れます。
東京五輪が目前に迫ってきた今、競技会場変更はマラソンと競歩に限らず、そのほかの競技にも及び、悪くすれば大会の開催都市変更にまで発展する、、、ことはさすがにないですかねf(^_^)
そうなれば、東京五輪大反対の私としても嬉しさこの上なく、万歳三唱は絶対します バンザ───(∩゚∀゚∩)───イ!!!!
冗談はともかく、俄然雲行きが怪しくなってきたことはたしかといえましょう。