ものが消える、などと書きますと、超自然現象の話のようですが、ときとして、現実にそんなことが起きます。いや、消えたとしか思えないことに出くわします。
昨日の朝、私はその現象に遭遇し、困っています。無精ヒゲが伸びたままだからです。
昨日の朝、いつものように、電動シェーバーでヒゲを剃ろうとしました。
女性の化粧と男性のヒゲ剃りのどちらが面倒に思えるか? という話があります。というぐらい、男性である私にとっても、ヒゲ剃りは面倒なことです。
ヒゲといいますと、私は鼻の下と顎にヒゲを伸ばしています。これといったきっかけも理由もなく、25歳のときからです。
父方の祖父が長いヒゲを伸ばしていたのを憶えています。その祖父も25歳のときから伸ばし始めた、とあとになって知りました。それを真似たわけではありませんで、25歳という年齢も偶然同じだっただけです。
強い明暗表現のバロック絵画の代表的な画家にカラヴァッジォ(1571~1610)がいます。
彼もヒゲをたくわえています。それを真似たわけではありませんが、私のヒゲはカラヴァッジォのようなタイプです。
このヒゲが生えている以外の無精ヒゲを毎朝剃るわけですが、面倒な気持ちがあったのでしょう。電動シェーバーを手から落としてしまいました。たまにそういうことがあります。
ヒゲ剃りは絨毯を敷いた床に落ちました。拾い上げようとすると、網刃の部分が外れて本体の近くに落ちています。両方を拾い上げて見ると、網刃の部分が見慣れないものに変わっています。
女性は電動シェーバーのことをよくわからないかもしれません。
私が使っているのはドイツのブラウンというメーカーの電動シェーバーです。父がそのメーカーのシェーバーを使っており、私もそのメーカーのシェーバーを選び、以来、同じメーカーのものを使っています。
私は浮気癖がないようで、他のメーカーのシェーバーには目移りしません。今のシェーバーは3代目ぐらいになります。
シェーバーの構造はメーカーによって違ったりするでしょう。内刃を回転させ、網刃とでヒゲを剃る仕組みのものもあります。
私が使ってきたブラウンのシェーバーは、内刃をモーターで振動させ、網刃との間に挟まったヒゲを剃り落とす構造になっています。
メーカーは、より綺麗にヒゲを剃るための研究をし、外側の網刃を多重構造にしたタイプを登場させています。私は、シンプルな構造のほうが故障が少ないだろう、とオリジナルな一枚刃タイプを、買い替えるたびに選んでいます。
このタイプにしておけば、網刃だけを交換しなければならないときも、コストが安く済むという利点もあります。構造が複雑になるほど価格が上昇するのは、どんなものにも共通することです。
今説明した網刃がはまった部分だけが、床に落ちたショックで外れ、しかも、外側のプラスチックのカバーと網刃の部分が別々外れてしまったのです。
網刃だけが交換できることは知っていましたが、今のシェーバーは網刃を交換したことがなく、それが外れた状態を初めて見ました。
シェーバー本体と網刃がついた部品はあります。ところが、網刃を本体に固定するための外側のカバーだけが見当たりません。これでは網刃をシェーバー本体に固定できず、ヒゲ剃りができません。
私の手から床に落ちる間に、外側のカバーだけが消えてしまった、としか思えない消えようです。部屋の中で落としたのですから、部屋の外へは飛んでいきません。
その部品だけが購入できるのか調べました。外側のカバー単体では売られておらず、網刃と内刃がセットの「コンビパック」を購入するしかないようです。
一番シンプルな構造のシェーバーですから、そのコンビパックはおそらくブラウンでも最も安いはずですが、3,000円ほどします。
手から落としてしまったことで3,000円の出費になるのが惜しい気持ちです。
昨日、カメラのレンズにつけて使うND16のフィルターを購入したばかりです。このフィルターは4,500円ほどでした。同じ日に3,000円の出費が加算されるのは痛いです。
昔読んだ江戸川乱歩(1894~1965)か松本清張(1909~1992)、あるいは、それ以外の作家が書いた短編を思い出します。
男が、二階へ階段を上がる間に、手に持っていた銅貨を落とします。その銅貨がどこへいったのか、いくら捜しても見つからないという短編です。階段の途中に落ちているはずですが、煙のように消えてしまったのです。
その後、男がなくしたと思った銅貨が、意外なところから見つかります。
今のズボンは、裾がストレートのものが多いでしょう。昔は、裾の端を折り返したダブルのズボンが多く履かれていました。銅貨は、裾を折り返した中に「隠れていた」という落ちです。
探し物が見つからないときは、意外なところに「隠れて」いたりするものです。
私はしばらく、根競べをするように、姿を「隠した」カバーを捜すつもりですが、無精ヒゲは日々伸びてきます。根競べに負けて買ったあとに、探し物が見つかるというのはよくあるパターンです。
1カ月ぐらい「隠れて」いるものが出てくるまで待つつもりですが、1カ月も経ったら、無精ヒゲはどうなるでしょう。ヒゲは、私におかまいなく伸びます。
私の探し物にも、馬鹿げた落ちがありました。
カバーはどこへも「隠れず」、シェーバーの本体にしっかりとついていたのでした。本体もカバーも黒色のため、気がつかなかったのです。
結局、床へ落とした時、網刃の部分だけが外れ、カバーは本体についたまま、というのが今回の落ちです。
こうした早とちりを、私はたまにします。
それでもよかったです。昨日、慌てて部品の注文を入れなくて。もうちょっとで、注文してしまうところでした。それが届いたあとに落ちに気がついたら、笑って済ませません。
結果オーライということにしておきましょう。