フレッド・アステア(1899~1987)が主演したミュージカル映画を見たのに始まり、1950年代のハリウッド映画に接することが続いています。
昨日は、『史上最大のショウ』(1952)を見ました。本作も、本ページで取り上げたテクニカラーで制作されています。
本作がNHK BSプレミアムで放送されたのは11月12日。といっても昨年ではなく一昨年の2020年です。
私は本作をこれまで見たことがなく、録画して1年8カ月ほどのちに再生して見ることになりました。
総勢1400人ほどの人間が働く大サーカス団の人々を描いた作品です。
私はまったく予備知識を持たずに見始めました。オープニングのタイトルが流れ、その中に、ジェームズ・ステュアート(1908~1997)の名があるのに気がつきました。
個人的には彼を、アルフレッド・ヒッチコック監督(1899~1980)の作品でよく見ています。
いかにも善良そうで、ダンディな役柄が似合う俳優です。ですので、サーカス団を描いた本作に出ていたのを意外に感じました。
巨大なサーカス団を率いるブラッドを演じるのはチャールトン・ヘストン(1923~ 2008)です。びくともしないような体を持ち、頼りがいがあります。
サーカスで花形とされるのは空中ブランコです。中央のブランコに乗る人が、そのサーカス団の最大のスターです。
米国の町々を回り、地方の人々をサーカスが行われる巨大なテントの中に呼び込みます。大勢の視線を一心に受けながら、空中でブランコを漕ぎ、スリルのある演技を披露するのですから、空中ブランコの演者は、演技をするたびに、これ以上ないほどの冥利を感じたりするものでしょう。
その中央のブランコに乗るのがホリー(ペティ・ハットン〔1921~2007〕)という女性でしたが、サーカスの営業成績を上げるため、セバスチャン(コーネル・ワイルド〔1912~1989〕)というブランコ乗りの男性スターと契約します。
セバスチャンは伊達男で、サーカス団を渡り歩いては、そこで女性問題を起こすなど、扱いにくいスターとしてしられているようです。
彼が、初めてサーカス団にやって来たときは、オープンカーを飛ばしてスピードオーバーし、彼を追う白バイ数台ともに現れました。罰金はサーカス団長のブラッドに払わせ、平気な顔をしています。
セバスチャンが加わったことで、男女の人間模様に波風が立ちます。
米国流のサーカスでは、派手な衣装と化粧をして、見物客を笑わせる道化師がつきものです。バトンズという道化師は、サーカス団の誰からも愛されています。
サーカスの見物客のひとりの女性が、目を潤ませて、道化師のバトンズの姿を追う場面があります。彼女に気づいたバトンズが、女性に近づき、言葉を交わします。
上品そうな彼女は、バトンズの母親のようです。サーカス団の一員となって国内を回る息子に会うため、見物に来たのです。
その場面を見ても、私は気がつきませんでした。バトンズを演じているのがジェームズ・ステュアートであることにです。
バトンズは、サーカスないときも、道化師の化粧を落としません。それだから、素顔が画面に登場せず、ステュアートになかなか気がつけなかったのでした。
結局、ステュアートは、一度も素顔をスクリーンに晒さずに終わりました。彼にとっても、そのような出演の仕方は、あとにも先にも一度もないでしょう。
作品の後半、サーカスが終わって後片付けをしているとき、象の一頭が、落ちていた新聞を鼻で拾い上げ、口に入れようとします。どうやら、新聞に飴がこびりついていて、それを食べようとしたらしいです。
新聞なんか食べたら体に悪い、とホリーが丸まった新聞を広げると、新聞の記事が現れます。そこには、「有能な外科医が”愛するがゆえに”妻を殺害 現在も逃走中」とあります。
ある場面で、バトンズがホリーに次のように話したことがありました。
愛するがゆえに殺す。腰抜けはキスで、勇者は剣で。
それを聴いたホリーが「愛してるなら、殺したりできない」というと_
愛は人を変にする。
と答えるバトンズでした。
サーカス団を描いた作品ですから、サーカスの場面が目白押しです。披露される曲芸の数々を見ていると、自分もサーカスの見物客のひとりになった気分です。
空中ブランコで芸を披露するホリーとセバスチャンの役を演じるふたりは、実際に、高いところでブランコに乗っています。おそらくは、スタントマンを使わずに、本人が演技しているように思いました。
撮影に入る前にトレーニングをしたのでしょうか。
実際に、サーカス団でサーカスをする団員も大勢登場しているでしょう。
人間ばかりでなく、大きな象が何頭も出てきて演技をしたり、調教された馬やライオン、猿などの動物も多数登場します。スケールは相当なものです。
終盤でとんでもないことが起きますが、彼らは、それに負けずに生きていくだろうことを予感させて作品は幕となります。