鉄道事故に導かれて読んだ小池真理子の作品

小池さんが書いた本を読んでいます。といっても、悪名高い東京都知事の小池百合子氏(1952~)の本ではありません。そんなものは、頼まれても読む気になれません。私が読んでいるのは、小説家の小池真理子(1952~)が書いた小説です。

正直にいいまして、私はこれまで、小池真理子の作品を読んだことがありません。彼女の作品を読み始めることになったきっかけは、毎週土曜日に配達される、朝日新聞土曜版のあるコラムを読んだことです。その土曜版には、政治学者の原武史氏(1962~)が受け持つ「歴史のダイヤグラム」のコーナーがあり、私はそれが好きで、欠かさず読んでいます。

原氏は子供の頃から(?)鉄道に興味を持っておられるそうで、主に昔の鉄道に関する話題を毎回書いています。

先週の土曜日(16日)の分には、「鶴見(つるみ)事故が左右する運命」と見出しがつきました。鶴見事故と聞いて、すぐにその事故を思い出す人は高齢の人か、鉄道に関心を持つ人に限られましょうか。私はその事故について、ほとんど知りませんでした。

この事故が起きたのは、前回の東京五輪の前年、1963(昭和38)年の11月9日夜です。

事故が起きたのは東海道本線鶴見新子安(しんこやす)間の滝坂不動踏切付近で、事故が発生した時刻は当日の午後9時50分頃です。

その事故の前、事故現場付近には、並行して延びる貨物用線路(品鶴〔ひんかく〕線)下り線で貨物列車が断線し、おそらくは東海道本線の上り線を塞ぐ状態になったのでしょう。そこへ、同線の上り線を12両編成の横須賀線電車が侵入し、線路を塞ぐ形でそこにあった貨物列車に激突し、その衝撃で、下り線側に乗り上げる形になったようです。

運悪く、下り線には12両編成の電車が侵入してきたため、先頭から5両目付近に上り線の電車が先頭付近から突っ込む形になり、下り線の5両目付近の車両を中心に、大破する大事故となったようです。この事故により、161人の命が奪われました。

【国鉄五大事故】鶴見事故の解説動画

この事故について書く中で原氏は、小池真理子の最新作『神よ憐れみたまえ』を紹介しており、私は自己と共に、小池の最新作に興味を持ったというわけです。

本作はAmazonの電子書籍版にもなっていることを知り、そのサンプル版を読みました。

本作では、東京・大田区久が原(くがはら)で資産家夫婦を惨殺した男が、雨が降る中を、白い雨合羽を着て、自転車で川崎駅まで走り、そこから、ちょうどホームに入って来た下り電車に乗り、鶴見事故に遭遇する話になっています。男は事故を起こした電車の先頭車両に乗ったため、大事故が起きたにも拘わらず、はじめはその事故に気がつかないほどでした。

話の展開に興味を持った私は、続きを読みたくなりました。しかし、すぐには判断がつかず、数日を過ごしました。

そうしていたとき、該当する電子書籍版が追加料金なしで読めるKindle Unlimitedが格安で利用できるのを知りました。通常は、1カ月980円の利用料金がかかります。それが、3カ月間199円で利用できるといいます。2741円もお得です。早速、このサービスの利用を始めました。

これを利用するなら読みたい本がありました。これについては本コーナーで書きましたが、村上春樹1949~)の作品を簡単に分析した『1冊でわかる村上春樹』という本です。格安のサービスを利用し始めた初日に、この本を読みました。

そのあと、小池真理子の本に移りました。最新作は読み放題に該当せず、電子書籍版は2178円払わないと読めません。そこで、小池の作品で読み放題できるものはないか調べ、『懐かしい骨 新装版』という作品を読みました。この作品は、1992(平成4)年に、『小説推理』という雑誌に短期連載し、それがのちに単行本になったそうです。

小池は1952年の生まれですので、40歳の年の作品になります。ちなみに、あの小池百合子氏も同じ年の生まれです。小池が小説家デビューしたのが33歳ですから、プロになって7年目の作品になります。

1992年には、松本清張1909~1992)が亡くなっています。また、私事になりますが、私の母がこの年の11月にこの世を去っています。遺体が病院から自宅に戻った時、外は激しい雨が降っていました。

そんな年に書かれたのが小池の『懐かしい骨』というわけです。

現代劇は、断りがない限り、それが書かれた年代が舞台になります。その年に、東京・吉祥寺(きちじょうじ)の実家に独りで暮らしていた母がくも膜下出血で急死し、独立して、それぞれ別のところに住んでいた兄と妹は、実家の家屋を解体し、土地を手放す決断をします。

その工事の過程で、思わぬものが発見されます。母屋の裏に立っていた物置下の地面の中から、白骨化した人間の遺体が発見されたのです。警察から連絡を受けた兄弟は、その骨が誰で、誰によって殺され、そこへ埋められたのか想像がつき、怯えながら捜査に協力するのです。

警察の鑑定では、23年から27年前の骨とされます。兄弟が知るのは、25年前のある時期に登場したある人物をめぐる出来事でした。1992年の25年前は1966年にあたり、小池の最新作『神よ憐れみたまえ』の事件が起きた1963年と偶然近い年代になります。前回の東京五輪の前後で、東京という都市が急激に近代化していった時代になりましょう。

直木賞作家となった小池ですから、たとえば村上春樹などとは違い、普通の人間が登場し、普通の生活をしています。言葉遣いも食べ物も庶民の生活に即しており、素直に感情移入して読み進めることができます。

『懐かしい骨』と『神よ憐れみたまえ』の両方に、私好みの人物が登場します。飾らない心優しい中年女性です。その人物が登場してくると、好ましく感じながらページを繰ることができます。

『懐かしい骨』を読んだことで、小池の作品が楽しめることがわかり、小池の最新作で、1963年11月に起きた鶴見事故を絡めて書かれた『神よ憐れみたまえ』を購入しました。まだ3分の1ほど読んだだけです。読み終わりましたら、本コーナーでまた取り上げることにします。

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