2006/06/18 「高島野十郎展」(その一)

本日は、昨日鑑賞してきたばかりの展覧会「没後30年 高島野十郎展」について、興奮冷めやらぬうちに書いておくことにします。同展が開かれているのは東京の三鷹市美術ギャラリーで、会期は来月17日(2006年7月17日)までです。

会場内には102点の油彩画をはじめとして、野十郎が生前に愛用したスケッチ用の絵具箱やイーゼルなどの画材一式、東京帝国大学在学中に描かれた魚の克明な観察図なども展示されており、いくら見ても見飽きることのない充実した内容となっています。

西洋絵画の展覧会の場合、作品の間近で鑑賞することはまず許されませんが、本展覧会はそれが適度に許され、気の済むまで鑑賞できる環境が何よりといえましょう。実際、私もそのひとりでしたが、作品に顔を近づけて舐めるが如くに鑑賞している人の姿を見かけました。

高島野十郎(たかしま・やじゅうろう)。おそらくは、よほど美術に関心をお持ちの方でもなければ、この画家のことはご存じないのではないかと思います。かくいう私も、野十郎という偉大な存在に気づいたのは自慢できるほど早くはありません。

きっかけは、1993年12月19日に放送された「日曜美術館」(NHK教育)でした。その日、同番組では「孤高の精神・高島野十郎」として野十郎の画業と人生を、テレビの美術番組としてはおそらく初めて真正面から取り上げました。

ついでまでに、同番組は1989年当時から、気になる画家が取り上げられるたびにビデオ録画する習慣を持っており、野十郎の回もビデオに録画して残してあります。

それでは野十郎の回を、冒頭部分だけになってしまいますが、紹介させていただくことにしましょう(ファイルの公開は終わりました)。

「日曜美術館 孤高の精神・高島野十郎」冒頭部分(1993年12月19日)(→ ナローバンド版)

この日のゲストは、生前の野十郎と親交をお持ちだった早稲田大学名誉教授(ロシア文学)の川崎浹(かわさき・とおる)氏(1930~)と画家の菊畑茂久馬(きくはた・もくま)氏(1935~)のおふたりでした。

私は通常、展覧会へ行っても図録を買い求めることをしないのですが、今回ばかりは話が違います。三鷹市美術ギャラリーのサイトを通じて展覧会図録をネットで購入できる(「三鷹市美術ギャラリー>展覧会図録4」)ことを知り、展覧会に行く前に買おうと思っていたほどです。

私は昨日、会場から出てきたあと、迷わず図録を求め、加えて『りんごを手にした自画像』『からすうり』『蝋燭(ろうそく)』の3枚のポストカードも買い求めました。しめて2500円の出費となりますが、これほど有意義な買い物もないでしょう。なぜなら、図録には野十郎の主だった作品が収められ、さながら画集の色彩が強いのですから。

本日の豆情報
展覧会が開かれている三鷹市美術ギャラリーのこちらのページをプリントアウトしたものに必要事項を記入して持って行くと、【120円】安く入場できます。私もしっかりプリントアウトして記入までしておきながら、当日、すっかり忘れてしまいました。おまけに帰りに秋葉原に寄ったら、途中で切符を紛失してしまい、そこでまた余計な出費です。でも、ま、充実した時間が過ごせたからいいかf(^_^)

ポストカードは、頃合いを見てそのうちの1枚を、NHK-FMの「サンセットパーク」宛てのリクエストカードとして使うことになるかもしれません。

そんな展覧会図録ですが、その中にも、13年前の番組に出演された川崎氏と菊畑氏おふたりが文章を寄せています。

川崎氏の文章には「高島野十郎の『空気』」と見出しがあり、偶然の出会いから野十郎の画業、そして野十郎が見せた人間的な一面までを綴っています。出会いについては、冒頭部分だけご覧いただいた動画の中で川崎氏が述べておられるとおりです。

そういえば、このたびの展覧会では、野十郎直筆の手紙が展示されています。私は、その内容の意外さに、「間違いではないのか?」と繰り返し目を通してしまいました。

展覧会図録にある福岡県立美術館の西本匡伸氏の説明によれば、それは「ある展覧会のチケットを贈ろうとした知人の娘さんの気遣いを断る手紙」(1966〔昭和41〕年2月25日付)なのだということですが、そこには端正な文字で次のようなことが綴られています。

小生の研究はたゞ自然があるのみで古今東西の芸術家の後を追ひ、それ等の作品を研究参考にするのではありませんし、反対にそれ等と絶縁して全くの孤独を求めてゐるのです…(中略)世の画壇と全く無縁になる事が小生の研究と精進です。

「没後30年 高島野十郎展」図録より

野十郎の絵画描法についてはまた日を改めて書いてみたいと思いますが、野十郎の画風は一貫して西洋古典絵画そのものであっただけに、私はこの手紙に書かれた内容に意外な感じを強く持ちました。

野十郎は1933(昭和8)年に帰国するまで4年でしたか、ヨーロッパに滞在し、美術館や教会で油彩画の神髄をみっちり学んでいます。また、川崎氏との出会いにもあるように、帰国後もルーヴル美術館展などが開催されれば足を運んで“学んで”いたはずです。

それを考えれば、どうも合点がいきません。

しかし、図録内の解説に当たっていて理解に至りました。本場で“本物”の油彩画に接した野十郎の眼には、1950年代末に日本に到来した抽象表現主義が不要に思われ、そこに展示されているのだろう”新しい絵画”の展覧会に行く暇があったら、自然と対話するほうを断然選ぶ、と答えたように思われます。

それで思い出しました。ギュスターヴ・モロー18261898)、そして牧野邦夫19251986)も、表現方法に違いはあれ、新しいとされた美術表現に背を向けていたことを。

とここまでは、昨日見てきた「高島野十郎展」について書いてきましたが、これは書き出しで、肝心の作品や個人的に関心の高い技法などについては、また日を改めて書いてみたいと思います。

いずれにしましても、今の時期、雨に邪魔されることが多くなりますが、そんな合間を縫って出かけてみる価値のある展覧会であると思います。いかがでしょうか。

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