東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の会長・森喜朗氏(1937~)の発言が問題視されています。
これをはじめに報じたのは、今発売中の『週刊文春』です。
5日の朝日新聞の記事をもとに、問題とされた発言を振り返っておきます。
その発言があったのは、今月3日にあった日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会です。
マスメディアの報道では、森氏の発言を要約し、おおよそ次のように報じることが多いでしょう。
女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる
女性っていうのは競争意識が強い
こんな発言をしたと聞けば、多くの女性は強い反発心を持つでしょう。
しかし、3日の朝日がこの問題を取り上げた中で紹介するもっと長い引用を読みますと、マスメディアが問題視する発言とは若干違ったニュアンスがあります。
森氏は、「女性がたくさん入っている理事会は会議の時間がかかる」「ラグビー協会は、(女性の理事が入ったことで)今までの倍時間がかかる」「女性は競争意識が強い。誰かが1人手をあげて発言すると、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それで、みんな発言されるのです」というような発言をしたあと、次のように話した、と朝日の記事にある要旨にはあります。そのまま引用します。
結局、あんまりいうと、新聞に書かれますけど、俺がまた悪口言ったとかなりますけど、女性を必ずしも数を増やしていく場合は、発言の時間をある程度、規制を促していかないとなかなか終わらないで困ると言っておられた。誰が言ったとは言いませんけど。
これをそのまま受け取りますと、「女性の発言の発言時間をある程度規制しないと、なかなか会議が終わらずに困る」と考えて森氏に話した人がいた、と森氏は話したことになります。
森氏の発言が問題視され、マスメディアがこぞって報じていますが、そのように森氏に話した人物が誰であるか、未だに明らかになっていません。
森氏の考えが間違っていると糾弾するのであれば、同じような考えを持つ別の人物も特定し、その人物の氏名も明らかにし、考え方を問う必要があるように私には思えます。
ところが、マスメディアにそのような動きが見えません。なぜでしょうか。
一口に女性といっても、一人ひとり性格は異なるでしょう。話すことが好きな女性であれば、森氏や森氏に愚痴をこぼした誰かが考えるように、何かの集まりで無駄に長く話し、ほかの参加者の迷惑になるようなことにもなるでしょう。
森氏のように考えたり、発言することの是非は別にして、一面の真理をついているといえなくもありません。
そんな話好きの女性がいる一方、たとえば、村上春樹(1949~)の短編『ドライブ・マイ・カー』(2013)に登場する若い女性運転手・みさきのように、必要なことしかしゃべらない女性もいます。
そんな女性が何かの集まりに参加すれば、周りの人に発言を促され、ようやく一度発言したりするかもしれません。
話が横道にそれましたので、もとに戻します。
この騒動には意外な展開が待っていました。騒動が始まった当初からその女性を名前入りで朝日新聞は取り上げていましたが、本日分の紙面には、森氏に問題とされた女性本人が登場し、取材に長々と答えています。
その記事の見出しは「森会長の発言『私のことだ』」です。
顔写真入りで登場したのは、昭和女子大で特命教授をされる稲沢裕子氏です。
稲沢氏は、2013年、日本ラグビー協会の理事に女性として初めて起用されています。稲沢氏に声をかけたのは、同協会で会長をしていた森氏だそうです。
それ以前、稲沢氏は、日本の各競技団体でパワーハラスメント問題などが起きていることに心を痛めていたようです。その背景には、競技団体に女性の役員が少ないことがあるのではと考えたそうです。
そうした考えのもと、女性の本音と向き合う活動を稲沢氏はされてきたそうです。その稲沢氏の評判を聞いたからでしょう。森氏が稲沢氏に近づき、日本ラグビー協会の理事になるよう誘ったようです。
稲沢氏はラグビーとは無縁でしたが、森氏は、ラグビーは人気が低迷している。まだラグビーを見たこともない人にもファンになって欲しいから、ラグビーと無縁だった稲沢氏だからこそ、その立場にふさわしい、というようなことで、話はまとまったのでしょう。
そんな稲沢氏が、今問題視される発言をした会合に参加していたというのを意外に感じました。しかも、それだけでなく、森氏がその発言をした時、稲沢氏も他の人と同じように、笑う側にいたというのです。
マスメディアは、問題発言の発覚を受け、会長を辞めるまで許さない! といった勢いです。
ところが、森氏の発言の直後は、参加者の誰もがそれを問題視していなかったことが、取材に答えた当の稲沢氏の口から次のように伝えられています。
森さんの発言に対して、笑いが起きたと報じられました。私も笑う側でした。(私は)男女雇用機会均等法以前に社会に出た世代(現在62歳)。男社会の中で女性は自分一人だけという場が多く、笑うしか選択肢がなかった。笑いを笑いで受け流していた。でも声をあげないといけなかった。一緒になって笑ってしまったことが、日本がいまだに「ジェンダーギャップ(男女格差)指数121位」にいる一因だと、いま学生を前に反省しています。男女関係なく「おかしい」と声をあげる社会に変えていかないといけません。

同じ場に、もしも朝日の女性記者が参加していたとして、果たして、「森氏の今の発言は絶対に許せない! すぐに撤回しなさい!」と発言できたでしょうか。
稲沢氏が反省されているように、自分でその発言がおかしいと考えたなら、それを自分の声にして相手に伝えるべきです。しかし、日本はそれができにくいことが多いような気がします。
私は割と、その場を支配する”空気”のようなものを意識せず、思ったことを思ったまま口にすることが多いです。それで、さざ波が立ったりすることが起きたりするわけですが。
渥美清(1928~1996)が演じた『男はつらいよ』の寅さんのように誰もがなれたなら、それはそれで理想的です。その分、あちらこちらで小さい騒動や大きな騒動が起きるでしょうが。
日本の社会は昔から和が尊ばれ、内心では不満に思っても、それを顔にも口にも出さず、笑って受け流してしまいがちです。だから、今回の稲沢氏が、口や顔で抗議できなかったことの批判はできません。
マスメディアが表立って森氏の発言を批判できるのは、ほかのマスメディアが同じように批判の報道をしているからです。
報道する側も実はほかのマスメディアの”空気”は敏感に感じているはずで、ほかのメディアがみんな賛成している中、自分のところだけが反対の報道はできないものです。
記者の中には反旗を翻したい心意気のある人がいるものですが、そんな時、そんな記者がよく使う手があります。
それは、識者の中から、反対意見を持つ人を見つけ、その人の口を通して反対の意思表明をすることです。
今の新コロ騒動については、私は一貫して「騒動は茶番だ!」との立場を採っています。また、ドナルド・トランプ氏(1946~)を極めて卑怯なやり方で退けた米国の大統領選挙にも疑問の目を向けています。
ところが、このように、おかしいことに「おかしい!」と声をあげる人を、マスメディアは「陰謀論者」と決めつけ、「頭のおかしい人」扱いしています。
昨日の朝日新聞は、一面のトップ記事と二面を使い、陰謀論に悪のレッテルを貼っています。
ジャーナリストの江川紹子氏(1958~)を担ぎ出し、その”危険性”について、次のようなことまで語らせています。
陰謀論は物語としては面白く見えるし、吸引力があるが、陰謀論や誤情報の拡散を軽く見てはいけない。人々の抵抗力がなくなり、それを信じる人が増えていくのは極めて危険だ。オウム(真理教)がその後、どんな道をたどったのか思い出せば、よく分かるはずだ。
オウムの一連の事件が起きたとき、テレビのワイドショーなどに出演して今の地位を得たのが江川氏です。その江川氏が、今起きている状況をオウムに例えて論じるのであれば、ほとんの人々が、マスメディアが流す嘘の情報によって、”洗脳”状態にある危険を見抜き、伝えるべきです。
人々の”洗脳”を解こうと、何の見返りもなしに声をあげているのが、マスメディアが陰謀論者と決めつける人たちです。
その構図が見えないようでは、ジャーナリストとして恥ずかしいです。
いや、恥ずかしいだけでなく、もっと問題なのは、コントロールする側の代弁をしていることです。そのことで人々は不幸になっています。
これは、犯罪に加担するのと同じで、罪深きことです。
このことは、次回以降の本コーナーで取り上げるかもしれません。
今回取り上げた稲沢氏は、おかしいことに「おかしい」と声をあげる社会に変えていかないといけない、と述べています。
同じような姿勢で、新コロ騒動と米大統領選挙のおかしさに気づいた人が、「おかしい」と声をあげています。それなのに、発言の分析もせず、一方的に陰謀論にしているのは誰ですか?
先の大戦でも、大本営発表を垂れ流す当時の新聞やラジオなどのマスメディアのありかたに「おかしい」と感じた人がいるはずです。
しかし、そうした発言や態度を示した人に、当時のマスメディアや民間人の多くは、「非国民」のレッテルを貼りました。その結果、どんな悲劇が起きましたか? ”非国民”と石を投げられた人々の正しさを、マスメディアは自戒を込めて認めるべきです。
マスメディアは、森氏の発言をあげつらうことばかりに血道を上げず、声をあげる人々の側に立つことをしませんか?
今の新コロ騒動も米大統領選挙も、「おかしい」と声をあげる人は、あなた方が決めつけるような陰謀論者などではなく、素直におかしいと感じるからそう声にしているだけです。
最後にもう一度、稲沢氏が自戒を込めて発言された言葉を噛み締めましょう。