あなたは夜、どのように眠りに入りますか。こう訊かれても、それはその日によって違う、と答えるよりないでしょう。私の答えも同じです。
昨夜、私はもしかしたら初めて味わうような心持で眠りに入りました。その記憶を残しておきたくて、本日分に書いています。
いつもの私は、布団に横になり、本を読みながら眠くなるのを待ちます。私は眠る時間が他の人よりは早いです。
昨夜もいつもと同じように、本を読んでいました。そのまま眠る直前まで読んでいても良かったのですが、本を閉じ、といっても私のは電子書籍ですから、Amazon Kindleのスイッチを切ったのですが、暗い部屋の中でじっとしていました。
私はある女性のことを想う時間に当てました。
私の恋はいつも片想いで、勝手に自分の中で膨らませ、何も実現することなく終わることを繰り返します。それでいて、恋を寄せる相手を見つけるのは得意で、すぐに恋に落ちてしまいます。
夜、布団の中で女性を想うといっても、みだらなことは想像しません。同じ空間で、同じ時間を過ごせたらいいだろう、と想像します。いつも自分のそばにその女性がいて、同じ空気を吸っています。言葉なんか交わさなくてもいいのです。
こんなことを考えたのは、阿刀田高のショートショート集を読んだからかもしれません。前回、本コーナーで取り上げた『箱の中』を読み終え、続けて、同じ阿刀田が、そのショートショート集の10年前、1984年に出版された『待っている男』を読みました。
それ以前にも阿刀田のショートショート集は読んだことがあり、それは非現実的なシュールな味わいがありました。これは、当時Kindle Unlimitedのサービスを利用していたため、追加料金なしで読んだことを確認しました。
そのほかには、国内外の作家が書いた短編作品を紹介する本を読みました。
それらを読む限り、阿刀田の作品に性的なものを感じることがなく、それが阿刀田の持ち味だと勝手に思っていました。それが、1984年に出版された『待っている男』は、多くに性描写があり、それが具体的です。
江戸川乱歩は倒錯した作品を多く残しましたが、男女の性交をリアルに描いたことは一度もありません。また、村上春樹は男女の性交場面を好みますが、行為を具体的に描くことは避けています。
それが阿刀田の場合は、パンティを脱がすことに始まり、恥毛を撫でまわし、蜜で満たされた秘密の花園を覗き込むようなことを、本ショートショート集に登場する様々な男に指せ、それをされる女は夢中になる、といった具合です。
同じ時期に書かれたほかの作品傾向がどうなのかは知りません。もしかしたら、このショートショート集は、あえてその表現を試す意図があったのかもしれません。
こんな風に、本ショートショート集の男女は多くが遊び慣れており、ある作品の女主人公は、東京の赤坂にアクセサリーの店を持っています。独身で、金に不自由しない熟年で妻子持ちの男を愛人にし、金を捻出させています。
女は自分の精神のバランスを取るのだと自分を信じ込ませ、六本木にある劇団に所属する売れない若い役者とも肉体関係を結びます。鶴のように細い身体の男です。
きっかけは、自宅マンション近くの花屋で観賞植物を買ったことです。その店でバイトをするその男がマンションにそれを運び入れ、それだけのことで、男女関係のきっかけをつかんでしまいます。
男と女の関係になるのは簡単なことだと阿刀田は書き、タイミングを見つけて唇を重ねればいい、というようなことを書きます。
小説であればそれでいいでしょうけれど、現実の生活で同じことがどれほど起きているのでしょうか。
これは私が考えることですが、肉体関係というのは、恋愛の一部であるように思います。逆に、肉体関係がそのすべてになってしまったら、飽きるのも速いでしょう。
それ以外の、相手を想う時間が恋愛の大半で、その一部分として、互いの気持ちが燃え上がったとき、体の関係を結ぶのが良いように思えます。
こんなことを書きますと、恋愛に能動的な人からは馬鹿にされ、頭でっかちだと笑われるかもしれません。
そんな人にも、独りで愛する人を想う時間を持つことをお勧めします。純粋に相手を想うことができたなら、これまでに経験したことがない幸せな気分にまでなることができます。
そんな感覚を私は昨夜味わうことができたのです。そのときの気分を文章で表すことはできません。また、毎晩それを再現することは難しいでしょう。
私たちは刺激に満ちた世界に生きていますが、最も刺激的なことは、自分の頭の中にイメージを膨らませることかもしれません。