熱いコーヒーとパスワードの取り扱い方

米国は日本に比べて裁判に訴えることが多く、訴訟社会のイメージがあります。過去にそれを象徴するような裁判があり、当時、日本でも話題になりました。

私は聞きかじりであったため、随分身勝手な訴訟人もいたものだ、と考えました。

私がイメージしたのは、車を運転してドライブスルーへ行き、熱い紙カップに入ったコーヒーを買い、それを両ひざで挟んで運転中、カップのコーヒーがこぼれ、火傷をしたとして、コーヒーを売った相手を裁判に訴えた、というようなことです。

私の勝手なイメージと事実は違い、ネットの事典ウィキペディアには次のように記述されています。

ウィキペディアに書かれているものに目を通しますと、事故は、1992年2月、米国のニューメキシコ州で起きています。

その日、当時79歳の女性は、孫娘が運転する車でマクドナルドへ行き、トライブスルーで、朝食用にハンバーガーとコーヒーを購入したのでしょう。そのあと、同チェーン店の駐車場に車を停め、朝食を済ませようとします。

車の助手席に座った彼女は、ミルクとシュガーを入れる際、こぼさないようにするため(?)か、熱いコーヒーが入った紙コップを、両膝で挟んで固定します。

この動作を考えますと、女性はスラックスを履いていたのでしょうか。スカートであったりすれば、素足かストッキングを履いた脚で挟むことになり、これでは熱すぎて、女性も断念せざるを得なかったでしょうから。

それはともかく、女性は紙コップの蓋を外そうとしたとき、コップが傾き、女性は脚に熱いコーヒーを浴びてしまう事故が発生します。

熱いコーヒーは服、おそらくはスラックス(?)に染み込み、そのあまりの熱さに悲鳴を上げたため、孫娘は祖母の年齢も考え、彼女の服を脱がせるなどの対応に当たります。

そうしたうえで孫娘は、彼女を最寄りの病院へ連れて行きます。しかし、あいにくのことには満杯の状態であったため、別の病院へ走り、そこで治療をしてもらいます。診察の結果は、第3度の火傷でした。

この事故のあと、火傷を負った女性は、火傷の原因となったコーヒーを販売したマクドナルドを訴えたことになります。

私が勝手に想像していたのと、現実は、異なる点がありました。

「写真AC」のイメージ素材

それはともかく、こうした事例を知り、あなたはどんな感想を持たれたでしょうか。

私がこの事故を思い出したのは、今日の朝日新聞に載っていた銀行預金の流出事件の記事を読んだからです。

ドコモ口座の問題があってから、マスメディアは関連した流出事例を扱うことが増えています。その多くは、流出のきっかけとなったキャッシュ決済サービスや、それに紐づけされた銀行側のセキュリティ体制の問題点を突くものです。

また、ネットの証券会社の顧客の口座が、加害者によって勝手に操作され、被害者となった個人が保有する株が勝手に売られ、加害者が犯行のために作った銀行口座に資金が勝手に移動される事例があることがわかり、その問題について書くこともしています。

それらの犯罪を取り上げた朝日新聞は、被害を出したサービス提供会社や銀行、ネット証券会社の不備を指摘する論調がもっぱらです。

これらの事件を扱った記事を読む私は、本日分の前半で取り上げた米国のマクドナルド・コーヒー事件を連想してしまったというわけです。

コーヒーで火傷をした婦人は気の毒ですが、火傷の恐れを考えれば、熱いコーヒーが入った紙カップを、膝で挟まなければ良かったのでは? と誰もが考えたりするでしょう。

その危険を自ら犯し、事故の可能性を自分で作っています。その挙句に、充分予想された事故が現実に起きます。

その途端、問題を起こす原因を自分で作った人間が今度はまったくの被害者になり、自分が火傷した原因を、一方的にマクドナルドにするのはどんなものか、と私は考えてしまうのです。

同じ論法が、銀行口座から不正に預金を引き出された人が、流出の基になった銀行と、その原因を引き起こしたキャッシュレス決済サービスや、ネット証券会社の責任だとして、被害を訴える行為に共通するように私には思えます。

火傷をするような熱いコーヒーが入った紙カップを、膝で挟んだ挙句、それを誤って火傷をする人が、果たしてどれほどいるでしょうか。

小さなお子さんがいる人で、我が子がそんなことをしようとしたら、慌てて止めるでしょう。「あ! 止めなさい! そんなことをしたら火傷をしてしまうわよ!」と。当たり前の話です。

そんな当たり前の想像が働かず、自分で危険を冒した挙句に起きた事故の原因を、その製品を販売した会社にし、その会社から補償金を取るという発想は、私には納得できません。

今、社会的に大きく取り上げられている銀行からの不正流出事件でも、同じサービスを利用する人がおしなべて同様の被害に遭っているわけではないことに着目すべきです。

ネット証券の最大手であるSBI証券を利用して個人が、被害にあったことは本コーナーでも取り上げました。

この事件の続編が今日の朝日新聞にあります。

前回この事件を取り上げたとき、私が疑問に思ったのは、SBI証券の利用者であれば、ログインパスワードのほかに取引パスワードがあり、そのふたつ共が犯罪者の手に渡ってしまったであろうことです。そんなことがどうして起きたのだろう、と私には疑問でした。

その種明かしが朝日の記事にありました。

なんのことはありません。SBI証券でこれまで被害に遭った6人は、ログインと取引のパスワードを両方とも同じ設定にしていたそうです。しかも、このふたつのセットを、他のネットサービスで使い回していたそうです。

朝日の記事は、SBI証券のサービスが、個人顧客のIDを、利用者の判断で自由に設定できることを問題視しています。

朝日の記者の指摘は、一面ではもっともな点がありますが、それがすべてではありません。

朝日のいい分もわからなくもないのは、たとえばYahoo!アカウントのように、他のサービスと同じIDとログインパスワードを、SBI証券で使い回す場合です。これであれば、流出した場合、両方が一挙に犯罪者側に渡る危険性が高まります。

朝日の記事が指摘しているように、楽天証券など同業者が実施する方式で、IDだけは証券会社側が用意したものを変更できない方式であれば、他のアカウントを使い回す人の情報が漏れた場合も、ID情報の流出は防げます。

しかし、そもそもの話として、他のサービスのIDとパスワードを使い回すことは極力避けなければならないわけですから、SBI証券が自分でIDを設定できるようになっていようが、利用する個人がそのサービス独自のIDを設定し、それを管理すれば何も問題は生じないことになり、朝日の指摘は当たりません。

記事には、この方面の専門家である立命館大学の教授の次のようなアドバイスがあります。

過去に流出したIDやパスワードはデータベース化され、闇で流通している。

それだから、同じIDとパスワードを別のサービスで使い回すのは避けろ、です。

こうした指摘は、個人情報が流出する事件が起きるたびにされています。それなのに、未だに使い回しをする人は、火傷の恐れが高い確率で起こることを知りながら、熱いコーヒーが入った紙カップを両膝で固定する人と大差ないとはいえないでしょうか?

どんなことも、最悪の事態を想定し、用心するに限ります。

熱いコーヒーが入った紙コップを両膝で挟むことは避けましょう。同じような意味合いで、IDやパスワードの使い回しは絶対に避けましょう。

独自のIDとパスワードが、問題のない使い方をしたのに流出したのであれば、その時初めてサービス提供側を訴えてもいいでしょう。

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