関東でもまだ猛暑が続いていますが、それでも9月に入ったこともあるのでしょうか。絵を描きたい欲求が高まっています。
私が絵を描くのに使う画材は油絵具です。扱いが難しく、私は長い年月接してきましたが、未だに使いこなせていません。
わからないときは、私が最も敬愛する17世紀のオランダの画家、レンブラントの画集を見ます。レンブラントの中期以降、晩年になるほど画材の扱いが魅力的になり、細部の絵具の重なり具合を見ていると、時間が経つのを忘れるほどです。
レンブラントの絵画技法に焦点を当てた1冊は、購入してから30年経ちましたが、本棚にいつも置き、気になるとすぐに開いて見ます。
その中の一枚に、マルガレータ・デ・ヘールを描いた肖像画があります。描かれたのは1661年とありますから、レンブラントが亡くなる8年前、55歳の時の作品です。
実物大に印刷された顔から、目の辺りの部分を紹介します。
紹介した画像ではその凄さがわからないかもしれません。それでも、ただ本物らしく描かれた絵でないことはわかるでしょう。
写実的な絵を描こうとする人は、得てすると、写真と見紛うように描くことを良しとしてしまいがちです。
もちろん、レンブラントもモデルになってくれた人の似姿を描いていますが、絵具の扱いは、いわゆる細密画のそれとは大きく異なることがわかってもらえますか?
絵具はラフにのせられています。絵具が盛り上がったはそのまま残し、マチエール(絵肌)を魅力的にしています。
この作品は全体を見ても、使われている絵具の数は少ないです。元々がレンブラントは使った色数が、当時の他の画家に比べても少ないといわれています。私が見たところ、使っている色を、今日本で市販されている色名でいえば、シルバーホワイト、イエローオーカー、ライトレッド、バーントアンバー、アイボリーブラックぐらいではなかろうかと思います。
油絵具を使って絵を描こうとする場合、それが静物画であれば、対象物に近い色を混色で作り、その部分に塗ったりするでしょう。
レンブラントは油絵具で静物画は描いていませんが、人物画の場合は、だいたいいつも、同じような絵具で描いたものと思われます。
面白いのは、どこそこの部分のために混色した色をどこそこに塗るようなことはせず、とりあえずできた色を、使えそうなところに塗っているように思えることです。
たとえば、瞳の部分のために作った暗い色が、眼窩の上の影の部分に使えると思えば、その色をそこに置いてしまったりもしたでしょう。
細密に描こうとはせず、筆を長く持ち、離れたところからカンヴァスに絵具をつけています。それだから、近づいて見ると、でたらめに色を置いたように見えます。しかし、離れたところから見れば、これ以上ないほど、リアルに見えるのです。
同じような描き方は、スペインの宮廷画家、ベラスケスの作品にも見られます。
レンブラントは、ここでは市民からの注文を受けて肖像画を描いていますが、誰に頼まれたのでもない作品に人物を描くときは、それなりに動機があったでしょう。
私は久しぶりに女性を描きたくなりました。動機は、恋心のようなものを抱いてしまったことです。なんだかんだいって、これが絵を描くにしろ、音楽を作るにしろ、一番重要な事であるように思います。
それが情熱となり、創作のパワーが増します。
ま、私の場合はいつも、勝手な思い込みで終わり、今回もきっとうそうでしょうが、ひとときであれ、幸せな感覚を持ってカンヴァスに迎えるのであれば、悪くはありません。
本人を目の前に置いて描ければいうことありませんが、なかなかそういうわけにもいかず、あとは姿を思い出しながら描くしかありません。近いうちに、また会うことができるかもしれませんけれど。
人間の部分は誰でも共通した造りになっていますから、耳の部分を描きたければ、鏡で自分の耳を観察し、それらしく描くことができます。
あとは絵具の使いこなしで、間違っても、写真のようには描かないことです。写真のように描くのであれば、写真を一枚撮れば、苦労して描くより本物そのものを平板の図像にすることが簡単に実現できます。
絵具を使って描くからには、物質としても魅力を持たせることが何よりです。そのかっこうの手本が、私にはレンブラントが残した作品です。レンブラントほど、物質的にも魅力的な作品を残した画家がほかにいないからです。
私は昔からレンブラントの影響を受けているため、使う絵具の数も少ないです。
昨日、加筆した肖像画っぽい絵から、レンブラント作と同じように、目の部分だけを切り抜いてみました。
ここで使っている絵具は、シルバーホワイト、イエローオーカー、ライトレッド、バーントアンバーだけです。黒く見える部分もバーントアンバーです。ホワイト以外は天然の土が原料ですので、安定しており、乾くのも速いです。
使っている絵具のひとつを「ライトレッド」と書きましたが、この系統に属する色はメーカーによっても多種あります。私は昔は、フランスの絵具メーカー、ルフラン&ブルジョワの「フレッシュオーカー」を、他の色を食わないライトレッド系絵具でしたので、好んで使っていました。
この色が今は手に入らず、少しの間困りました。その後、オランダの絵具メーカー、ターレンスのレンブラントシリーズにある「オレンジオーカー」を使ってみたところ、私が望んでいたライトレッド系絵具だったため、今はこれを使用しています。
油絵具は、速乾性の絵具と違い、塗り重ねるのが難しいといわれます。しかし、これも慣れで、アラプリマのように、下に塗ってまだ乾いていない色の上に重ねて塗っていくことはできます。
ここでも、チューブから絞り出した絵具の練り具合をあまり変えず、筆に大目につけた絵具をのせるようなことをしています。
また、細かい部分を描くのだからといって、筆先の細い絵具を使うのは考え物です。むしろ、豚毛のように固い筆で、しかも平筆のようなものを使い、その端の部分で細かい部分に色を置く方が、こんな描き方には向いています。
出来栄えはどうあれ、絵具を使って描いているときは、何物にも代えがたい幸せな気分に満たされます。
この投稿が終わったら、別の乾いている絵に加筆することにしましょうか。
秋本来の涼しい陽気が待ち遠しいです。