悦楽ウイルスに濃厚感染したWとTの対談本

マスメディアが煽る新型コロナウイルス(COVID-19)騒動も”限界”が見え始めました。先月ぐらいから庶民の騒動に対する反応が様変わりしています。庶民の不安を煽りに煽ったマスメディアは、自分の尻に火がつき始めていることを知り、内心は慌てふためいているでしょう。

そんな、新コロなんちゃって騒動が下火に向かう中、私はAmazonの電子書籍Kindleで”ウイルス”関連の本を読みました。といっても、命には別条のない”悦楽のウイルス”。

『カメラは病気 あなたに送る悦楽のウイルス』という一冊です。

これは対談で、”チョートク”の愛称を持つ写真家で、評論家でもある田中長徳氏が、作家で弁護士でもあった和久俊三氏と、京都の和久氏の自宅で2日間、のべ10時間以上にわたって繰り広げたカメラ談義を一冊にまとめたものです。

この本は確か、最大50%のポイントが還元されるときに購入してあったものです。

本書の電子書籍版が出たのは2006年4月20日ですが、紙の書籍は1998年12月1日に出ています。たしか、出版されるまでに1年ぐらいかかったというようなことが書かれていた(?)と記憶しますので、出版の前年の5月、おふたりの対談が2日間行われたことになります。

対談が実現したきっかけは、「さいごのまとめ」の部分で和久氏が話されていますが、田中氏が書くカメラ関連の文章を読み、ほかの写真家とは違って広い見識を持っている。一度会って話してみたい、ということで実現したようです。

対談の内容は多岐にわたり、一通り読んだあとは、興味のあるところを拾い読みしても、それぞれを面白く読めそうな内容です。

和久氏は弁護士もされる作家ということですから、弁護士になったあと、時間ができて作家になられた、というような印象を持たれるかもしれません。しかし、対談の中でそのあたりのことが語られていますが、それを聞くと、実は意外な理由だったりすることがわかります。

和久氏は京都大学の法学部出身ですから、弁護士という仕事に直結していてもおかしくありません。ところが、学生時代は法学部に通いながら、法律関係がおもしろくないと感じ、授業にも全然行かなかったと話しています。

そんなわけで、法学部を卒業したあとは、中日新聞に入り、記者の仕事をしています。

その後、司法試験を受けて弁護士になりますが、弁護士になろうと考えたのは、小説家になりたかったからだそうです。そのあたりの心境を、対談で次のように述べています。

なぜ司法試験を受けたかというと、要するに何か新しい体験をしないと小説は書けない、だから弁護士になろう、というところからの出発です。

初めは弁護士しながら小説を書こうと思った んですよ。小説だけで飯を食うのは大変だと。

田中 長徳; 和久 峻三. カメラは病気~あなたに贈る悦楽のウイルス~ (光文社知恵の森文庫) (Kindle の位置No.2503-2506). 光文社. Kindle 版.

小説家として食べていくのが大変なことはわかりますが、それになるために司法試験に受かり、弁護士になるというのは、これはこれで大変なことであろうと思います。

そのどちらも実現してしまうのですから、和久氏は大変な人ですね。

しかも、当時のことですから、弁護士になるための専門予備校のようなものはなく、独学だったそうです。弁護士を目指したのは35歳過ぎと話しています。

肝心のカメラの話ですが、和久氏がカメラにのめり込むようになったのは、おそらくは弁護士と作家という二足の草鞋を履き始めた頃であろうと思います。というのも、弁護士になる勉強を独学でし、その経験があったから写真も独学でやろうと思ったと話しているからです。

”ライカの鉄人”といわれる田中長徳氏は、推理小説はあまり読んだことがないそうで、和久氏のことも、『赤かぶ検事シリーズ』の作者であるぐらいの認識しか持っていなかったそうです。

田中氏は、作家でカメラ好きとなると、たとえば赤瀬川原平氏らで、話すこととえいば、金属のカメラが持つ物としての魅力といったことばかりです。ですから、和久氏もそんな作家だと思って自宅を訪問すると、まったく違ったカメラ好きであることがわかり、大いに戸惑いながら対談が始まります。

カメラや写真に関する考え方が、和久氏と田中氏はまったく異なります。それだから、話が進めば”化学反応”が起こり、思わぬところで”発火”が起こり、その”発火”によって、別の話に”飛び火”するようなことが起こり、読むほうとしては楽しめます。

これが、赤瀬川氏のように、気心が知れた人との対談であれば、同じようなところをぐるぐる回るだけの展開で終わってしまったかもしれません。

田中氏は新品でカメラやレンズを買うことは稀で、大概は、始終顔を出す中古カメラ屋で掘り出し物を見つけては、それを自分のコレクションに加えるようなことをしてきたそうです。

一方、和久氏は絵を描きたいと思ったこともあってか、カメラは、自分が欲しい絵を撮るために必要な機材と考え、必要な物を必要なだけ購入するそうです。そのためには投入する資金を惜しみません。

そんな和久氏を見ながら田中氏は、次のような感想を述べます。

基本的には先生にも共通してるんですけれども、京都でハッセル(ハッセルブラッド)とかライカとかテヒニカ(リンホフ)をお使いになる方は、基本的には旦那芸ですね。豊かな土地柄ですから旦那芸のカメラなんです。東京はやっぱりあらゆる人が いるので、貧乏人が無理して私みたいに、つまり五千円でも安いものを買おうとかしていますが、京都 はそういうのがないんです。

田中 長徳; 和久 峻三. カメラは病気~あなたに贈る悦楽のウイルス~ (光文社知恵の森文庫) (Kindle の位置No.2524-2528). 光文社. Kindle 版.

写真の撮り方も田中氏と和久氏では180度違います。

田中氏は、世界中を飛び回ってスナップ写真を撮るのが基本です。一方、和久氏ははじめに絵柄を思い描き、それを撮るために撮影場所の条件を事前に調べ抜き、必要な機材を揃え、狙った一枚を写真に収めるそうです。

個人的には、圧倒的に田中氏の撮影方法ですね。下手の横好きで、昔から素人写真を撮ってきましたが、撮る方法と内容は、昔も今も一緒です。

フィルムカメラを使っていた頃は、好きでそればかり使っていたコダクローム64という36枚撮りのリバーサルフィルムを1本装填したら、家族や飼い猫、庭から見える風景を、毎日数枚ぐらいずつ撮影し、撮り終わったら現像に出すことをしていました。

デジタルカメラを使う今は記録媒体がフィルムからメモリーカードに替わっただけで、撮る対象はまったく同じです。ほとんど毎日撮影するのも一緒です。すべてスナップ撮影です。

スナップ撮影だったら誰でもできそうなものですが、和久氏はそれが苦手で、田中氏の撮影スタイルに憧れてしまうのですから、聴いてみなければわからないものですね。

もっとも、田中氏の撮るスナップ写真と私のとでは、レベルが雲泥の差でしょうけれど。

田中氏がおっしゃることには、決定的な場面をスナップ撮影するには、「あっ」と思ったときにはシャッターを切り終わっていなければならない、というようなことを述べています。

和久氏は、長年の経験で感じたカメラやレンズのメーカー、カメラを取り巻く状況に対する率直な不満を歯に衣着せずに述べています。それは気持ちが良いほどです。

田中氏も評論家としては毒舌なほうですが、それでもそれなりにしがらみがあることをご自分でも認められ、各方面に気を使っていることが窺われます。

具体的には、カメラ雑誌の文章を書いて、メーカーへの配慮が足りない場合は、編集部から書き直しが要求され、マイルドな表現にしたりすることが少なくないそうです。

そんな大人の都合を聴いた和久氏が、次のような感想を述べたりします。

話をカメラ雑誌に戻しますが、メーカーがそういう姿勢なのはそれはそれで問題があるのだけれども、問題なのは、ジャーナリズムなんだ。この回答者の写真家の人はメーカー側に立っていて、消費者の立場からものを見ていない。それをそのまま載せている「アサヒカメラ」も、ようするに発行元の朝日新聞社も、結局は、完全にメーカーのヒモツキの感覚でやっているわけですよ。

田中 長徳; 和久 峻三. カメラは病気~あなたに贈る悦楽のウイルス~ (光文社知恵の森文庫) (Kindle の位置No.2467-2471). 光文社. Kindle 版.

和久氏が法律家として著作権について語る場面もあり、参考になります。

和久氏は2018年10月10日に88歳で亡くなられました。本作に収められた対談は、たぶん1997年5月ですから、亡くなられる21年前になります。

亡くなられて2年経ちますが、和久氏が揃えたカメラ機材はどうなったでしょう。田中氏が取材し、それを本にしたら、読んでみたい気がします。すでに書籍になっている(?)かもしれませんが。

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