皆がそれに倣っているか確かめようがありませんが、社会的な常識として、既婚者は左手の薬指に指輪をはめる習慣が日本ではあります。それが、海外でも同じような習慣なのか、私は知りません。
私は今日の昼頃、ある若い女性の左の薬指に何気なく視線を向けました。すると、彼女の指に、指輪がありました。
ただそれは、細いリングではなく、シルバーがかった、やや幅を持つものでした。
指輪にはくわしくありませんが、もしかしたらファッションリング(?)というものかもしれません。
私は未婚ですので、左の薬指に指輪はありません。私は生まれてこの方、結婚していないこともあり、指輪をはめたことが一度もありません。
そんな私が、未婚であるにも拘わらず、ひとつのファッションとして左の手の薬指に指輪ははめようと考えることはありません。
女性の中には、アクセサリーの一部として、左手の薬指に指輪をはめることは珍しくないのでしょうか。
私が指輪をはめていることに気がついた女性は、本コーナーで前々回にチラッと書いた、保険の担当者です。
私個人としては、保険の類いに入るつもりはありません。しかし、2000年に亡くなった私のたった一人の姉弟の姉の夫、つまり私の義兄から、私に保険に入るよう勧められ、ほとんど無自覚に、13年ほど前に今の保険に加入しました。
一度入った保険は、私が加入している保険会社では、数年ごとに点検するようなことが行われるようで、先週の金曜日、保険を更新する話をしに、担当者が二人、家にやって来ました。
義兄の保険を担当する女性は年配の人で、義兄としても、その人が来ると思っていたところ、若い女性と、少し年上の女性二人がやって来て、説明がありました。
話を聴いてわかったのは、二人のうち、若い女性が、新たに私の担当になったということでした。彼女の年齢はわかりませんが、おそらくは新人に近いものと思います。
通常は担当者が一人でやってくるものですが、まだ新人の彼女のため、指南役の女性が、彼女の補佐としてやってきたのでした。
説明はもっぱら補佐の女性がし、私の担当の彼女は、補佐の隣で私の方を見たりしていました。
新しく担当についてくれた女性が美しく見えたため、私はちらちらと彼女を見ていました。
一度目の訪問では話がまとまらず、昨日、二度目の訪問を受けました。
二度とも説明のほとんどは補佐役の女性であったため、担当の彼女が、テーブルの上で手を動かすようなことはありませんでした。ですので、彼女の左手の薬指に目を向けることはありませんでした。
その二人から、今日の昼頃、三度目の訪問を受けました。今日で手続きが完了するという話で、実際に作業はすべて終了しました。
二人はタブレットPCの端末を携帯し、手続きはすべてそのデジタル画面で完了できるようになっています。私のサインも、タブレットの液晶画面に専用のペンで書くよう指示され、そのようにしました。
端末の操作が始まってから、担当の彼女がテーブルの上に両手を伸ばす作業が増えました。
そのとき、気になっていた彼女の左手の薬指に目をやると、冒頭で書きましたように、幅広のシルバーっぽい指輪がはめられているのが目に入りました。
その瞬間、私は軽いショックを受けました。
見たところ、彼女は新人のように見え、それだから、補佐役の女性と訪問していると考えていました。
もちろん、結婚時期はひとそれぞれで、10代で結婚する人もいます。歳が若いからといって未婚と判断することはできません。それでも、新人に見えた彼女は、何となく未婚であろうと勝手に想像していました。
指南役の女性は、話の端々に自分の夫の話がありましたので、こちらの女性が既婚であることは疑いようがありません。子供がいるかどうかまでは知りませんが。
私の軽いショックは、一瞬、顔を曇らせたでしょうか。
その間も、手続きの作業は続いており、私はいわれるままに、必要があれば、主に【はい】の部分にチェックを入れたりすることをしました。
作業が進み、私はまた彼女の左手の薬指を見ました。すると、今度は指輪がなくなっていました。不思議に感じ、私は注意深く観察しましたが、指輪はありません。
彼女はテーブルを挟んで私の真向かいに座っていました。
テーブルの下へ手を移動し、テーブルで隠すようにして指輪を外すことはできます。しかし、そんな仕草をしたことにはまったく気がつきませんでした。
指輪が消えた彼女の左手の薬指を見た私は、気持ちが元気になりました。
手続きは完了し、二人は帰っていきました。
分厚い説明書を持ってくるということで、明日、もう一度訪問すると伝えられました。
私ははじめの方に、シルバーの指輪に気がつかなかったら、それが”手品”には感じなかったでしょう。また、そんな”手品”をする彼女の意思に、私が想像を膨らませることもなかったことになります。
甘い白日夢を見た気持ちです。