戦争美化の映画を拒絶した大林宣彦

数日前、録画してあった番組を見ましたので、それについて書いておきます。

今月5日の午後7時から50分間、「BS1スペシャル」枠で放送された「映画で未来をかえようよ・大林宣彦から4人の監督へのメッセージ」です。

大林といいますと、16年前に東京・東池袋にある映画館、新文芸坐で「大林ワールド・ベストセレクション」(7月10日~7月16日)が催されたとき、会場へ足を運び、上映の合間にあったトークショーを含めて、本コーナーで書きました。

大林のことは昔から知っていますが、初期の代表的な作品しか見ておらず、最近はどんな作品を撮ったのかも知らずにいました。

遺作となった『海辺の映画館 キネマの玉手箱』は、死を覚悟された大林が、映画人として生きたご自身の集大成のようなつもりで撮った作品になりましょうか。

それを仕上げ、劇場公開を予定した今年の4月10日当日に82歳で亡くなられたというのは、あまりにも因縁めいているように思われます。

大林は、8ミリ映画を使ったアマチュア映像作家としてスタートし、その後は、日本のTVコマーシャルの全盛期にコマーシャル・フィルムの人気監督となっています。

有名なところでは、チャールズ・ブロンソンを起用したマンダムのコマーシャルです。

当時、映画監督を目指すなら、既成の映画会社に入り、そこで助監督などで修行する必要がありました。助監督とは名ばかりで、実のところ、監督にこき使われる下働きといったところでしょう。

それでも、一本でも作品を監督できれば報われます。しかし、映画を作るのには、費用を極限まで省いても大金がかかってしまいます。そんなこともあり、一本の監督作品も撮ることなく、助監督のまま終わる人が少なくないと聞きます。

大林は、既成から外れたところで映画人生をスタートしたため、実験映画的な撮り方も自由に採り入れることができます。

昔、新文芸坐のトークショーで話されたことを思い出しますと、まだ大学生の頃、映画好きが集まり、ムービーカメラを使っていろいろなことを試したことを話されていました。

あるときは、小型の16ミリ映画(16ミリフィルム)用カメラで撮影しながら、みんなが輪になって宙に放り投げたりしたことがあったそうです。宙を回転しながら撮影が撮れたでしょう。使い物にはならなかった(?)かもしれませんが。

コマーシャル製作の世界で知られるようになり、やがて、大手の映画会社から招聘され、商業映画の監督をするようになります。大林は、自分が商業映画を撮るようになるとは考えてもいなかった、とトークショーで話されました。

大林は有名になっても、自分を映画監督とは名乗らず、「映画作家」とか名乗っていたように記憶しています。

こんな経歴を持っていたため、死期が近づいたとき、日本の映画を任せる監督として4人の監督の名を上げますが、いずれも、自主映画の世界から商業作品を監督するようになった、岩井俊二手塚眞犬童一心塚本晋也の4人です。

番組では、4人に、大林作品のことや、大林自身のこと、自作との関わり合いなどを別々にインタビューし、大林の生前の映像や話などと共に紹介しています。

手塚眞は、漫画の神様といわれた手塚治虫の長男であることはよく知られているでしょう。治虫は60歳で亡くなっています。眞は、来年60歳です。

眞の映像を見ていますと、父親に生き写しです。治虫の年齢を超えたとき、眞はどんな新境地を見せることができるでしょうか。

塚本晋也といえば、自主製作映画の『鉄男』が有名で、私も昔からよく知っています。

大林は、今、戦争が近づいているといい、塚本は「君は”戦前派”の映画監督だ」と大林からいわれた話を披露しています。

大林といえば、出身地の広島県尾道市を舞台にしたいわゆる「尾道三部作」が知られています。

そんな大林が、2011年3月11日に東日本大震災が起きたことで、作風を意識して変えたと番組で伝えています。以後は、大林が子供の時代に体験した戦争を題材に選び、作品に仕上げていくことになります。

生前の大林が戦争を扱った映画を作る上での心構えを語る場面があり、強く印象に残りました。それは、観客にカタルシスを感じさせる戦争映画になるなら、撮ってはいけない、というようなニュアンスの話です。

それを聞きながら私に思い浮かんだのは、百田尚樹の原作を映画化した『永遠のゼロ』です。

私はこの映画を見たことがなく、内容も知りません。しかし、この映画が公開された当時、新聞などは作品を取り上げ、高い評価を得ていた記憶があります。

観客の入りも良かったと聞きます。興業的には成功したのかもしれません。しかし、そんな国内の風潮を見て、大林は嘆いていたのだろうと思います。「観客にカタルシスを感じさせてどうする! 戦争反対と描いても、結局は、賛美する感覚が作品を見た人のうちに残ってしまう! そんなことをしてどうするのだ!」と。

ちなみに映画『永遠のゼロ』で主演を務めるのは岡田准一ですが、岡田といえば、安倍晋三首相にべったりな俳優としてよく知られていることは、一応、頭の片隅に置いておくべきでしょう。

大林の戦争映画に対する考え方に通じる話が、村上春樹『若い読者のための短編小説案内』に出てきます。

村上が、作家、丸谷才一の短編作品『樹影譚』について論じる中で、次のように書く個所です。

あくまで僕の推測に過ぎないのだけれど、この人は若いときに(戦争中に)、そのような安易な叙情や情念が、どれほど間違った方向に人を流していったかということを、嫌というほど見てきたのではあるまいかと思うのです。だからまわりに何を言われようと、何を思われようと、最後の最後まで自分の論理でつっぱってものを書くしか、やり方を持たないのではないか? そういう感じを受けます。とはいってももちろん論文を書いているのではなく、小説を書いているわけですから、最後にはこらえきれずに叙情や情念はばあっと出てくる。でも最後までは懸命にこらえる。たとえは悪いけれど、東映のやくざ映画で、高倉健が最後までじっと歯を食いしばってこらえてこらえて我慢する。最後に鞘を払って斬り込む。これに似ていますね。

村上春樹. 若い読者のための短編小説案内 (文春文庫) (Kindle の位置No.1945-1951). . Kindle 版.

戦争映画が持つ問題は作る側の責任です。しかし、それを見る観客も、カタルシスを無防備に感じてしまうのではなく、ときには批判的に見るぐらいのことは求められるでしょう。

真に優れた批評であれば、ただ褒めちぎることはせず、その作品が持つ”危険性”についても論じて然るべきです。

しかし、私が新聞でその作品を取り上げた記事やコラムで、その視点から書かれたものは記憶にありません。

大林は独自の道を歩いたことで、既成に毒されず、独自の”哲学”を持てたことになります。

逆にいえば、既成に毒された制作者が乱造する作品には”毒”が混じり、マスメディアも論じる力を持たないため、”毒”があることを庶民に伝える意味さえ理解していません。

そうであれば、観客が個人で聡明になり、的確な批判精神を持ち、個々の映画作品に接するよりほかなくなります。

そんなことを考えさせられた大林の追悼番組でした。

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