犯行の告白を描くワイルダー作品

「深夜の告白」と聞いたらどんなことをイメージするでしょう。もしかしたら、男女の話を連想するかもしれません。

昨日の午後、映画『深夜の告白』をNHKBSプレミアムで見ました。監督は、前々回に本コーナーで取り上げた『七年目の浮気』を監督したビリー・ワイルダーです。

米国では1944年に公開されていますから、昭和にすれば19年。米国も日本も戦争状態にあり、翌年には広島と長崎に米国が原爆を投下(日本への原子爆弾投下)し、日本に戦闘を放棄させています。

そんな大戦のさなかに、戦争の影をみじんも感じさせない本作が米国で作られ、終戦前年に公開されたとき、映画館に多くの市民が集まったりしたのでしょうか。

ちなみに、本作が日本で公開されたのは米国に遅れること9年の1953年12月です。

私はワイルダー監督が好きですが、本作は初めて見たように思います。白黒のスタンダードサイズで、フィルム・ノワールの古典として評価が高いそうです。

初めて見たというのに、筋をよく憶えています。それだけ、構成がしっかりしているということでしょう。

主人公のウォルター・ネフを演じるのはフレッド・マクマレイです。

彼が映った瞬間、見たことがある役者だと思いました。しかし、すぐにそれが誰かわかりませんでした。見ているうちに思い当りました。

ワイルダー監督の代表作ともいえる『アパートの鍵貸します』で、ジャック・レモンが名演したC・C・バクスターが勤める会社の重役の役をしていました。その重役は、バクスターが片想いするフラン(シャーリー・マクレーン)と不倫しているといった設定です。

『アパートの鍵貸します』は1960年公開で、その16年前に、まだ若かったマクマレイが、タフガイのネフを演じていたのでした。

見始めてすぐに気がついたのは、とにかく台詞が多いことです。始終誰かがしゃべり、それが字幕になるため、見始めたら目を逸らすことができません。

原題は”Double Indemnity”で、Google翻訳すると『二重補償』になります。原作は、ジェームズ・M・ケインの『殺人保険』(1936)です。

邦題は『深夜の告白』ですが、深夜に告白をするのは主人公のネフです。

物語の冒頭、深夜の街を、信号も無視して乱暴に走る1台の車があります。車が停まったのはあるビルの下で、車を運転していたのはネフです。

ネフは額に脂汗をかき、様子が普通ではありません。彼はエレベーターに乗り、ある階で降り、オフィスに入っていきます。そこは、彼が外交員をする保険会社です。

彼は部屋の中に入り、当時では珍しかったであろう録音機のスイッチを入れ、保険会社で保険調査員をするキーズ(エドワード・G・ロビンソン)へ長い長い告白をし始めます。

その告白は翌朝まで続き、告白に基づいてその時の映像が流れ、告白が終わる翌朝、早朝にも拘わらず社にやって来たキーズに会い、そこで告白が終わる作りになっています。

保険会社は、加入者を自社の保険に勧誘することで利益を得ます。しかし、中には保険金目当てで加入する者がいます。その不正を厳しく見抜く仕事を、ネフを仕事ぶりを評価するキーズがしている、といった設定になっています。

登場人物が限られていますので、初めて見ても混乱することはありません。

ネフは車を飛ばし、顧客の家を訪れます。客は石油関係の仕事をする実業家で、自動車保険が切れたため、再契約を迫る目的での訪問です。

自宅にはあいにく当人がおらず、代わって対応してくれたのは、実業家の後妻のフィリス(バーバラ・スタンウィック)です。ネフはフィリスの怪しい魅力に魅了され、保険勧誘もそこそこに、男と女の関係をフィリスに求めます。

ワイルダーが監督する作品は、私が知っている限りでは、どろどろの男女関係を描きません。本作でも、ネフとフィリスが深い関係になったことを観客にわからせる程度に抑えています。

間違っても、ベッドシーンを描くような野暮なことはしません。

フィリスがネフに、ある保険を訪ねます。傷害保険です。それを、本人に内緒で夫にかけたいというのです。その意味を悟ったネフは、協力を申し出ます。

話は具体的になり、夫が死亡すれば5万ドルの保険金を受け取れると説明します。しかも、その保険には倍額特約がついていて、特殊な状況で死亡すれば、倍の保険金が支払われる。

たとえば、列車に乗っているときに死亡すれば、受取額は倍の10ドルになる、と話すのです。

保険といえば、1998年に起きて世間を騒がせた和歌山毒物カレー事件が思い出されます。殺人罪などに問われた林眞須美は、2009年、死刑がいい渡され、刑が確定しています。

眞須美死刑囚は保険会社の勧誘員でしたから保険の仕組みには詳しく、それを最大限に悪用し、夫に巨額の生命保険をかけた上、殺害する計画があったのでは、と当時の週刊誌が取り上げていたのを思い出します。

眞須美死刑囚がワイルダーの本作の存在を知っていたかどうかはわかりません。

本作を見たことがない人は、どんなストーリーを思い描くでしょう。想像を超えた展開が待っており、さすがワイルダー作品だと感心させられます。

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