2015/08/08 レセップスに見る あっぱれな人生

いつの時代も、信じられないくらい精力的な人がいます。日経新聞の一面コラム「春秋」の昨日分を読み、改めてそれを実感しました。

私は不勉強なもので、コラムで取り上げられた人物を知りませんでした。その人はフランス人で、若い頃は外交官をしていました。1849年にその職を辞したあと、人生の歯車が逆回転を始めます。夫婦仲が良かったどうかは知りませんが、1854年に妻と息子を続けて失います。仕事から退き、愛妻と愛息を亡くすという悲劇に襲われます。

その人は49歳になっていました。普通程度の精神力しか持たない人であれば、「自分の人生もここまでか」と諦めに近い感情を抱き、人生の先の展望には明るいものを見出しにくくなるでしょう。しかし、その人はまるで違いました。むしろ、ここからその人の人生が始まっています。

その人は、スエズ運河の建設に乗り出します。その人とは、フェルディナン・ド・レセップスです。ネットの事典「ウィキペディア」で彼について記述されたページに添えられた彼の肖像画を見ますと、自分の夢を実現するためなら、どんな困難にも立ち向かうといった強い意志が感じ取れます。

どんな強靱な精神を持っていても、国同士の思惑が絡み、一個人の思いだけでそれが実現できるとも思えません。しかし、レセップスは諦めず、さまざまな手を尽くして実現していきます。「ウィキペディア」の記述に、親族にナポレオン3世がいたとありますから、彼の体にはあのナポレオン・ボナパルトDNAが受け継がれ、それもあって困難を駆逐することができたのでしょうか。

工事そのものも難工事だったでしょう。現場で働く人間の間には疫病が蔓延し、さながら戦場と化したような状況だったでしょうか。運河は1869年の完成ですから、レセップスは64歳になっていました。運河建設のためにレセップスが興したスエズ運河会社は、建設が終わったあとは長年にわたって運河を保有して運営にあたったそうです。

この運河が完成した1週間ほどあと、レセップスは再婚をしています。相手は「40歳以上わかい女性」と『春秋』の記述にありますので、二十歳そこそこの相手になりましょう。レセップスは運河を完成させた25年後に亡くなったそうですが、それまでの期間に、12人の子供をもったそうです。

このあたりの記述を読んで、私は、精力的な人もいたものだなぁ、とほとほと感心させられました。

レセップスの“野望”はこれだけでは留まらず、パナマ運河の実現へも向かいます。その開発のための会社に就任したのが1881年だそうですので、76歳になっていた計算になります。

こちらは、レセップスが存命中には実現できず、会社は1889年に破産し、パナマ運河疑獄へと発展しています。

レセップスは背任と詐欺の罪を問われ、結局は無罪を勝ち取ったとはいえ、精神的にも追い詰められたでしょう。「ウィキペディア」には、「この事件に巻き込まれ名声を失ったのと、彼自身の精神の病とが原因となり、1894年に失意のまま死去した」とあります。享年は89歳です。

レセップスが遺したスエズ運河を拡張する工事がこのほど完了し、記念式典が行われました。

パナマ運河の拡張工事も2007年から行われており、年内に工事が終了する見込みだそうです。レセップスは失意のままこの世を去ったでしょうが、そのときに抱いた壮大な夢は、今なお広がりを見せているといえましょう。

まことにあっぱれな人生であったといわざるを得ません。

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